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現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」55

2014年03月04日 | 物語「水辺ノ夢」

圭は病院を訪れる。
病室に行くと祖母が出迎える。

いつも通りの事。

「ばあちゃん、具合はどう?」

「この通りさ。
 圭が来てくれてるから良くなるんだねぇ」

圭はその様子を見る。
無理をして空元気を装うときもあるが、今日は本当に調子が良さそうだ。

「ばあちゃん。……あの、俺、さ」
「なんだい」

きっとこんな時でなければ言う機会がない。

「俺、結婚したんだ……けど」

「あら、まぁ!!!
 早く言わないかい、そんな事は。
 私からお祝いが出来ない所だったじゃないか、ちょっと待ってなさい」

「お祝いとか気にしなくていいよ!!
 それで、あの」

圭は祖母に向き直って、言う。

「東一族の人、なんだ」

祖母は目を見張る。
今の病状だ。
下手な心配はさせまいと、高子は何も伝えていないだろう。

「俺の事、選んでくれるのは
 後にも先にも彼女しかいないと思う」

あらー、と、気の抜けた声を祖母は出す。
驚かせすぎたか、と圭は慌てる。

「そんな時代になったんだねぇ」

ひっそりと祖母が言う。

祖母の世代は、まだ東一族との争いが激しかった。
若い世代より東一族を憎む人が多い。

「良いことじゃないか、圭」

病室の窓を眺めながら、祖母は笑う。
きっと、遠く、湖の方を見つめながら。



しばらく話した後、圭は病室を出て診察室に向かう。

「高子」

「居るわよ、入って」

病室で高子は、圭の腕の傷跡を見る。
狩りの際についた傷だ。

「傷跡は残るけど、後遺症は無さそうね。
 あとは年に数回注射を打ちに来て。
 菌が体に残っているかもしれないから」

「高子」

「うん?」

「ばあちゃんに、杏子の事、話した」

「……そう。驚いていたでしょう」

「でも、認めてくれた。お前が選んだ人ならって」

杏子が居て、祖母が居て、
高子や透達のように声をかけてくれる人が数人いる。
それだけで、圭は幸せだ。

「ばあちゃんに手術の話をするんだけれど」

結局狩りで実績は残せなかった。
けれど、高子と相談して、手術代は少しずつ返していくという事で落ち着いた。
何十年がかりになるか分からないが、それでも構わなかった。

「自分にそんなお金を使うなって」

だが、肝心の祖母は手術を拒否している。

「うんって言わないんだ」

圭はうなだれる。



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