ゆらゆら、と、水面が揺れる。
水辺は、相変わらず、霧に覆われている。
肌寒い。
そう思いながら、辺りを見る。
水辺は、静かだ。
誰もいない。
麻樹は、梨子から預かった装飾品を握りしめる。
本来は、次期宗主の光院から、自分の娘に渡されるはずだったもの。
なのに
今は、そのふたりとも、いない。
娘は
杏子は、いったい、どこへ行ってしまったのだろうか。
麻樹は、ため息をつく。
水辺を見る。
揺れていた水面が、不規則な動きをする。
麻樹は首を傾げる。
霧の向こうを、見ようとする。
霧の向こうに、ほのかな光。
その光が、近づいてくる。
麻樹は、ただ、その光を見つめる。
そして、現れる舟。
舟なんて
ずっと昔に、一度、見たきりだ。と、麻樹は思った。
「誰だ」
麻樹は訊ねる。
「君は、誰だ」
東一族ではない者に、訊ねる。
「君は、どこから、来た?」
麻樹は、彼を見る。
彼と目が合う。
彼は、自分とは違う容姿。
ゆらゆらと揺れる舟。
そこに、若い西一族がいる。
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