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現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」59

2014年03月18日 | 物語「水辺ノ夢」

夜、暗くなってから圭は家を出た。
杏子に頼まれた手紙は
言われたとおり、瓶に入れて湖に流すつもりだ。

でも

きちんと、届けることが出来たら。
せめて東一族の村の近くまで。

これはそう言う手紙だ。

「……あれ?」

水辺に付いた圭は異変に気付く。

杏子が村に連れてこられる騒動があってから
いつも以上に水辺の見張りが厳しくなっている。

圭もこの手紙を流す所を見られてはいけない、と
様子を伺うはずだった。

そのはずなのに。

「人が居ない」

きっと、偶然。
見張りが厳しくなって数ヶ月。
変わりのない現状に当番が気を緩ませたのだろう。

圭は村の方を振り返る。
きっと、今しか、ない。

「……っ」

圭は舟に乗り込む。

漕ぎ出すが、見張りは来ないようだ。
だが、早く岸を離れなくては、と気持ちだけが焦る。
見つからないように。早く。早く。

手に汗を握りながら夜の湖を舟で進む。

同じ事は何度も無い。

ならば
杏子を呼びに行くべきだったのかもしれないと圭は思う。
東一族の村に杏子を戻すことが出来たのは、今しか無かった。

「きっと、間に合わなかった」

見張りが戻ってくるかもしれない。
さすがに一晩中、持ち場を離れたりはしないだろうから。

「……なんて」

言い訳だな。と、遠くなる西一族の岸辺を見つめる。

手紙の入った瓶を握りしめる。
暗闇の中、水面に静かに波が立つ。
初めて杏子と出会ったときのようだ、と圭は思う。



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