TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺外伝・カイとヨツバ」1

2013年12月23日 | 物語「水辺ノ夢」

この町は、私の村と違って活気がある。
大きな市場があって、
露天商があちこちに見られる。
見慣れない肌の色。髪の色。
色々な所から沢山の人がやって来るのだろう。

飲物売りが高い声をあげて歩いている。
少し肌寒い時期になってきたので
私は温かいお茶を買う。

場所を見つけて腰掛け、そのお茶を飲む。
今日は風が強い。
長い髪が乱れるので
片手で髪を押さえながら辺りを見回す。

きっと、通りすがる人の中には、
私の髪の色や瞳の色を見て、驚いたりする人もいるのだろう。
そうだ、きっと『カイ』もそうだったのだろう。

私も最初に『カイ』を見た時は驚いたものだ。
だけどそれは珍しい色、だからじゃない。

私の一族と『カイ』の一族が、
とても険悪だから、と言う理由だ。

いつからなのかは分からないけど、
もう何十年と前からお互いにいがみ合っている。
だから、交流もなく、争いも起こっていない今、
私は初めて敵の一族を見た。
噂通りの真っ黒な髪と瞳だ。

私達のように白に近い色ではない。

最初に声をかけてきたのは『カイ』。
慌てる様子もなく「こんにちは」と返した私に、
ふぅん、とどこか感心したように唸って
自分の名前を名乗った。

不思議な響きだったので、私は少し首をかしげた。
すると彼は笑いながら

「そちらには無い響きなのか?
 そうだな、……じゃあ『カイ』で、どうだ」

そう、呼ばれる事もあるからと言う。

それならば、と私も自分の名前を名乗った。

「私は、ヨツバ。よろしくね、カイ」



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「水辺ノ夢」40

2013年12月20日 | 物語「水辺ノ夢」

圭は、病院を後にする。

もう一度、病室へと立ち寄ったが、祖母はすでに眠りについていた。
声をかけられなかったが、また、近いうちに来ればいいだけのこと。

病院を出て、圭はため息をつく。

頭の中は、祖母のことでいっぱいだった。

どうしたらよいのだろう。
祖母は、圭にとって、たったひとりの家族だ。
どこにいるのかわからない両親に代わって、圭を育ててくれた。

その祖母が、もう・・・。

けれども
手術をするならば、お金はどうする?

家には、お金はない。
頼れる人も、いない。

圭は、ふらふらと、家路を歩く。

「病院に、行ってきたのか」

突然声をかけられて、圭は、びくりとする。
立ち止まり、振り返る。

そこに

「叔父さん・・・」

補佐役の男が立っている。

「お金がいるんだろ?」

圭は、補佐役から目をそらす。

高子が、補佐役に伝えたと云った。
補佐役は、祖母の症状も、手術にかかるお金も知っているのだろう。

「助けてやれないこともない」
「え?」
その言葉に、圭は、思わず補佐役を見る。
補佐役が云う。
「圭、お前次第だけどな」
「それは・・・」
「お金が、必要なんだろ?」
同じ言葉に、圭は口を閉ざす。

そうだ。
お金が必要なのだ。

だから

今、自分にできることならば、やらなければならない。

――祖母 の、ために。

「簡単なことだ」
補佐役が云う。

「どんな手を使ってでも、あの東一族から、情報を引き出してこい」


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「水辺ノ夢」39

2013年12月17日 | 物語「水辺ノ夢」
診察室に入って来た圭に
高子が声をかける。

「彼女、あれから大丈夫?」

杏子の事だと分かり、圭は頷く。

「すっかり良いみたいだ
 ありがとう。助かったよ」
「そう、なら良かったわ」

高子は圭にイスに座るよう進める。
それから自分も対面のイスに座り
あらかじめ準備されていたカルテを開く。
専門用語が並び、圭には
それが意図する事を読み取れない。

「貴方のおばあさんだけど
 あまり、良い状態とは言えないわ」

高子の言葉に圭は息を飲む。

「え?
 だって定期的に退院しているじゃないか
 この前だって、一時帰宅してきたし」

圭はそれが回復の兆しだと
思っていた。
正式な退院まであと少しなのだと。

「この先を考えると、ね
 なんとか帰れるうちに、と思って」
「……そんな」
「補佐役の方には話してあったのだけど
 貴方には伝わって無かったのね」

補佐役は圭の親戚で
圭と圭の祖母の後見人をしている。
仕方なく、なのは圭も分かっている。
実際補佐役の男は
一族の足を引っ張っている圭が自分と親戚だというとこを
疎ましく思っている節がある。

圭は項垂れる。

「そんな風には見えなかった」
「今は、なんとか薬で保っている状態なの」
「……回復する見込みは?」

高子は一度言葉を濁す。

「手術をしたら、あるいは」
「だったら、それを!!」

「詳しく言うと、
 手術をしても回復するかどうかの割合は半分程。
 それに、とても費用がかかるの。
 金額は補佐役の方には伝えてあるから
 後で話してみるといいわ」

「高いの、か」

圭は服の裾を握りしめる。
高子は続けて言う。

「高齢だから体力も気になる所よ。
 どうするか、じっくり考えてから決めてちょうだい」


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「水辺ノ夢」38

2013年12月13日 | 物語「水辺ノ夢」

数日後。

朝食が済んで、圭は、杏子に声をかける。
「今日、出かけてくるよ」
前もって圭が伝えるのは、長時間、家を空けるということだ。

「わかっていると思うけれど」
圭は、杏子を見る。
「外には、出ないように・・・」

杏子は、頷く。

圭は出かける準備をする。
杏子は布を取り出し、裁縫をはじめる。

「それは?」

見たことのない布に、圭は準備をしていた手を止める。
圭の知らないものが、この家にあるはずがない。
杏子は外に出て、ものを持ち込むことなんて、出来ないのだから。

「これは、補佐役の方が」
杏子は、作業をしながら云う。
「服を作るようにと」
「服?」
圭は、首を傾げる。
いつのまに、補佐役が来て、杏子に布を渡したのだろう。
しかも
「なぜ、服を?」
「わからないわ」
「でも、その色は」
西一族の服の色には、なりえない色。

圭は、再度、首を傾げる。

「じゃあ、出かけてくるよ」
圭の言葉に、杏子は顔を上げる。
「行ってらっしゃい」

圭は、家を出て、通りを歩く。

何人かの村人とすれ違う。
誰も、圭に声をかけない。

圭は、西一族の病院にたどり着く。

そのまま、祖母のいる部屋へと向かう。
圭も、長く見舞いに来ているので、祖母の部屋は覚えている。
扉をたたく。
云う。
「ばあちゃん。入るよ」
圭が扉を開くと、祖母が、体を起こす。
「圭」
「あ・・・、寝ていた?」
祖母が、笑う。
「ちょうど、起きたところ」
圭は、祖母の横へと行く。
「調子・・・どう?」
「だいぶいいよ」
祖母が云う。
「高子先生が、よくしてくれる。安心だわ」
「そっか」
祖母の顔を見られただけでも、よかったと、圭は頷く。
「どうだい?」
「え?」
突然の、祖母の質問。
「最近も、夜遊びをしているのかい?」
「ちょっ、ばぁちゃん」
圭が焦ったのを見て、祖母が吹き出す。

圭が、杏子と初めて会ったあの日のことを、云っているのだろうか。
何も云わなかったけれど、祖母は、気付いていたのだろう。

「まじめにやっているよ」

その答えに、祖母は、再度吹き出す。

しばらく、そんな、他愛もない話をしていると、祖母の薬が運ばれてくる。
「お薬の時間ですよ」
「ああ、もう、そんな時間」
圭は云う。
「じゃあ、俺、高子のところに行ってくるよ」
もちろん、祖母の現状を聞きに、だ。

祖母は頷き、薬を運んできた看護師と、話しはじめる。

その様子を見て、圭は部屋を出る。


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「水辺ノ夢」37

2013年12月10日 | 物語「水辺ノ夢」
杏子はもと来ただろう道を引き返す。
湖に沿って足早に歩く。

運よく、なのか、
日は少し昇っていたが
誰にも会わず圭の家に帰りつく。

それとも広司が居た牢も
圭の家も村の外れで
杏子が歩いた距離は
村の大きさに比べたら
ほんの僅かなもの、なのかもしれない。

杏子は西一族も、その村についても
何も分からない。

「もし、私が逃げたら」

圭がどうこう、という訳では無い。
ただ、
何も知らない、敵対する土地に来て
これからどうなっていくのか
何一つ先が見えない。

ついこの前までは
光がいない、ならば
もう何の未練も無いような
そんな気がしていたのに。

今は
東一族の村に帰りたくて仕方ない。

けれど、

「その時、圭はどうなるんだろう」

村長の補佐役の男も言っていた。
これ以上、
立場を悪くしたくなければ
杏子を逃すな、と。

「……」

杏子は一呼吸置いて
家の扉をあける。

圭は、まだ起きていないようだ。
昨日は杏子の事で
圭も疲れているのかもしれない。

杏子は広間の椅子に座る。

「……光」

彼が居たら、
きっとこの状況を変えてくれていた。
杏子を探しに来て、
圭の抱える問題も
解決してくれただろう。

でも、光はもういない。

「私、あなたに頼りすぎていた」

杏子は立ち上がる。
もうそろそろ圭も起きてくるだろう。
台所に向かう。

「朝ごはん、作らなきゃ」

何か、出来ることをしないと。
していないと
どうにかなってしまいそうだ。



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