TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」36

2013年12月06日 | 物語「水辺ノ夢」

広司の言葉に、杏子は、建物の入り口を見る。

ほかの西一族の者に、姿を見られるわけにはいかない。

それでも
どうしても聞きたいことがあって、杏子は、おそるおそる口を開く。

「圭のこと・・・」
「何?」
杏子は、広司を見る。云う。
「圭のこと、どうして・・・そんなに」
杏子は、うまく、言葉にできない。
広司は、杏子が云いたいことを理解する。
「西一族は、狩りをする一族だから」
云う。
「狩りが出来なければ、役立たずだし、一族の恥。それだけ」
「・・・それだけ?」

広司は目を細める。

「あんたの東一族ではどうかは、知らないが」

杏子は、広司から目をそらす。

東一族では、考えられないこと。
いや
少なくとも、杏子が知る限りでは、それだけで除けられる者はいなかった。

はず。

自分の東一族と、西一族では、こんなにも違うのか。

「なぜ、ここに来た?」
広司の言葉に、杏子は顔を上げる。
「この建物に、だよ」
「それは・・・」
「村の外へ出ようとしたんだろ」
杏子は、口を紡ぐ。
「やめとけ。隣の村に行くまでに、危険な獣も出る」
「獣・・・」
「見たことないのか?」
杏子は首を振る。
そのまま、杏子は何も云わない。

明らかに、落胆した杏子に、広司が云う。

「早く、行けよ。人が来る」

杏子は、肩を落としたまま、頷く。

少し牢から遠ざかって、杏子は振り返る。

「あなたは、そこから出られるの?」
「当たり前だろ」

「そう」

広司は、杏子の顔がゆるんだのに、気付く。

杏子は、そのまま広司に背を向け、歩き出す。
建物の外へ。

広司の位置からは、もはや、杏子の姿は見えない。
やがて、足音が遠ざかる。

「変なやつ」


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「水辺ノ夢」35

2013年12月03日 | 物語「水辺ノ夢」
建物の中は静まりかえっている。
反対側の出口を探し、杏子は進む。

薄暗い廊下を歩く。
この建物に人は居ないのだろうか。

そう思っていた所に
明かりが見える。
外の明るさではない。
人工的な明かりがドアの隙間から漏れている。

けれどそのドアの前を通らなくては
廊下を抜けられない。

杏子は音を立てずにその前を通り過ぎようとする。



「誰だ?」

ドアの向こうからの声に杏子は身を震わせる。
西一族は狩りの一族。
気配には敏感なのかもしれない。

だが、ドアの向こうの人物はこちらに出てくることはない。

なぜだろう、と
目を凝らすと、ドアに閂が掛けてある。
閉じ込められている、と杏子は理解する。

廊下の様子を見ようと
中の人がドアに付いている小窓から顔を覗かせる。

「あんたは」

その人に杏子は声をあげかけて
思わず、口に手を当てる。
それを見て彼は言う。

「……ここには俺しかいない」
「どうして、あなたが
――― ……広司」

杏子はやっと声を出す。

「あぁ、謹慎だと。あんたを連れてきたからな」

その言葉に杏子は青ざめる。
自分のせいでたくさんの人に迷惑を掛けてしまっている。
広司にも……圭にも。

「あんた、圭の妻になったんだって」
「……そう、なのかな」

自分でもまだ、理解出来ていない。
杏子はそう思う。

「かわいそうにな、あんな役立たずと」

広司の言葉に杏子は彼を見つめる。

「圭のこと?……そんな風に言わないで」
「はっ!!
 あんな何一つ満足に出来ないやつ。
 一族の恥だ!!」
「そんな酷い言い方、しなくても」

杏子は圭の村での立ち位置を知る。
初めて会ったときに
圭が東一族の村がある対岸まで舟を漕いできたのは
そういう理由なのだろうか、と。

ため息をついて広司が言う。

「もうすぐ、ここには人が来るが
 あんたは見つかっても良いのか?」


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