飲物売りが、また、私の前を歩いていった。
温かかったお茶は半分以上残っていたけれど
とっくの昔に冷え切っていた。
私は中身をこぼして、カップも捨てた。
『カイ』は来ない。
もう、夕暮れ時になる。
これ以上待つ事に意味はないような気がした。
町を歩いていると、どこかの誰かが、
『カイ』の村の話をしていた。
あの村で、病が流行ったらしいぞ。
伝染病で何人も死んだようだ。
なかには、これ以上被害が広まらないように、
殺された者もいるらしい。
『カイ』はどうなったのだろう。
それとも、単に
『カイ』は私をからかっただけで
彼の村でいつも通りに過ごしているかもしれない。
どちらにせよ同じ事のような気がした。
きっともう、私が『カイ』に会う事は無いのだろうから。
私の村へ続く道を歩き始める。
今なら馬が出る時間には間に合うだろう。
『カイ』から以前貰った飾りは腕に付ける物で、
男物だからだろうか、私の腕には少し大きい。
いつも、滑り落ちそうになる。
今度会ったら長さを変えてもらおうと思っていたのに。
町はずれの橋に近づくと、見慣れた姿が見えた。
あの人だ。
「―――?」
私が名前を呼ぶと、
あぁ。と手をふって答えた。
「仕事は終わったの?」
私が尋ねると、
彼は頷いてふぅ、と長いため息をついた。
「今回の仕事は疲れた。
早く村に帰って、ゆっくりしたい」
そうねぇ。と答えながら、私は何気なく後ろを振り返った。
そこにはただ、
夕日にてらされた私達の影が長く長く伸びていた。
『水辺外伝・カイとヨツバ』完