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TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」37

2013年12月10日 | 物語「水辺ノ夢」
杏子はもと来ただろう道を引き返す。
湖に沿って足早に歩く。

運よく、なのか、
日は少し昇っていたが
誰にも会わず圭の家に帰りつく。

それとも広司が居た牢も
圭の家も村の外れで
杏子が歩いた距離は
村の大きさに比べたら
ほんの僅かなもの、なのかもしれない。

杏子は西一族も、その村についても
何も分からない。

「もし、私が逃げたら」

圭がどうこう、という訳では無い。
ただ、
何も知らない、敵対する土地に来て
これからどうなっていくのか
何一つ先が見えない。

ついこの前までは
光がいない、ならば
もう何の未練も無いような
そんな気がしていたのに。

今は
東一族の村に帰りたくて仕方ない。

けれど、

「その時、圭はどうなるんだろう」

村長の補佐役の男も言っていた。
これ以上、
立場を悪くしたくなければ
杏子を逃すな、と。

「……」

杏子は一呼吸置いて
家の扉をあける。

圭は、まだ起きていないようだ。
昨日は杏子の事で
圭も疲れているのかもしれない。

杏子は広間の椅子に座る。

「……光」

彼が居たら、
きっとこの状況を変えてくれていた。
杏子を探しに来て、
圭の抱える問題も
解決してくれただろう。

でも、光はもういない。

「私、あなたに頼りすぎていた」

杏子は立ち上がる。
もうそろそろ圭も起きてくるだろう。
台所に向かう。

「朝ごはん、作らなきゃ」

何か、出来ることをしないと。
していないと
どうにかなってしまいそうだ。



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