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現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「水辺ノ夢」38

2013年12月13日 | 物語「水辺ノ夢」

数日後。

朝食が済んで、圭は、杏子に声をかける。
「今日、出かけてくるよ」
前もって圭が伝えるのは、長時間、家を空けるということだ。

「わかっていると思うけれど」
圭は、杏子を見る。
「外には、出ないように・・・」

杏子は、頷く。

圭は出かける準備をする。
杏子は布を取り出し、裁縫をはじめる。

「それは?」

見たことのない布に、圭は準備をしていた手を止める。
圭の知らないものが、この家にあるはずがない。
杏子は外に出て、ものを持ち込むことなんて、出来ないのだから。

「これは、補佐役の方が」
杏子は、作業をしながら云う。
「服を作るようにと」
「服?」
圭は、首を傾げる。
いつのまに、補佐役が来て、杏子に布を渡したのだろう。
しかも
「なぜ、服を?」
「わからないわ」
「でも、その色は」
西一族の服の色には、なりえない色。

圭は、再度、首を傾げる。

「じゃあ、出かけてくるよ」
圭の言葉に、杏子は顔を上げる。
「行ってらっしゃい」

圭は、家を出て、通りを歩く。

何人かの村人とすれ違う。
誰も、圭に声をかけない。

圭は、西一族の病院にたどり着く。

そのまま、祖母のいる部屋へと向かう。
圭も、長く見舞いに来ているので、祖母の部屋は覚えている。
扉をたたく。
云う。
「ばあちゃん。入るよ」
圭が扉を開くと、祖母が、体を起こす。
「圭」
「あ・・・、寝ていた?」
祖母が、笑う。
「ちょうど、起きたところ」
圭は、祖母の横へと行く。
「調子・・・どう?」
「だいぶいいよ」
祖母が云う。
「高子先生が、よくしてくれる。安心だわ」
「そっか」
祖母の顔を見られただけでも、よかったと、圭は頷く。
「どうだい?」
「え?」
突然の、祖母の質問。
「最近も、夜遊びをしているのかい?」
「ちょっ、ばぁちゃん」
圭が焦ったのを見て、祖母が吹き出す。

圭が、杏子と初めて会ったあの日のことを、云っているのだろうか。
何も云わなかったけれど、祖母は、気付いていたのだろう。

「まじめにやっているよ」

その答えに、祖母は、再度吹き出す。

しばらく、そんな、他愛もない話をしていると、祖母の薬が運ばれてくる。
「お薬の時間ですよ」
「ああ、もう、そんな時間」
圭は云う。
「じゃあ、俺、高子のところに行ってくるよ」
もちろん、祖母の現状を聞きに、だ。

祖母は頷き、薬を運んできた看護師と、話しはじめる。

その様子を見て、圭は部屋を出る。


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