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TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「約束の夜」249

2020年10月27日 | 物語「約束の夜」
その日の狩りを終えると
京子は足早に広場を抜ける。

「あら、今日は早いのね。
 寄っていかない?」

声をかけられて、
ごめんなさい、また今度、と
会釈を返す。

西一族の狩りは、
獲物を捌き終えるまでが一連の作業だが
この後は予定が立て込んでいる。

早く行きなよ、と、班の皆が声をかけてくれたので
ありがたく言葉に甘えている。

「ただいま!!」

駆け足で家に戻ると
着替えてあらかじめ準備していた荷物を掴む。

「いってきます!!」

滞在時間も僅かで家を飛び出る。

「間に合うかしら」

余裕を持って広場を出たのに、
途中、寄った店で
時間をかけすぎてしまった。

「だって、今日は」

「あ!!」
「わぁ!!」

横道から出てきた人にぶつかってしまう。
おまけに、
京子は無事で相手を突き飛ばしてしまった状態。

「ごごごごめん!!!!」

わあ、と京子は慌てて駆け寄る。

「大丈夫、圭(けい)?」

腕を引いて起き上がらせながら、
はた、と気がつく。
京子より年下で、面識は少ない。
だいたいの者は狩りで顔見知りになるが
確か圭は体が弱くて、狩りには参加してない。

「病院連れて行かなきゃ!?」
「………そこまでは弱くないから」

立ち上がったあと、
大丈夫、と京子の手を払う。

さては女子の対応に慣れてないと見た。

「圭、そんなんじゃ、
 主役は務まらないわよ。
 もうちょっとシャキッとしなきゃ」
「いや、主役ってなに」
「これからの話よ、
 あなた、夢なんだから、水辺の!!」

「ええっと」

突然、突き飛ばされた上
年下には変にお姉さんぶりたい京子に絡まれて
正直困っている圭。

「京子、急いでたんじゃないか?」

「あ!!!」

そうだった、と京子は叫ぶ。

「急がなきゃ、馬車が出ちゃう!!
 あ、圭お菓子あげる、
 ぶつかったお詫びね、これ」

わぁああああ、と駆けていく京子。
貰った飴玉を見つめながら
圭は呟く。

「いや、水辺の夢ってなに……?」

それから、走って走って
なんとか馬車の出発に間に合った京子。

ふう、と腰掛けて一息つく。

「いや、よかった。
 準備していても、いつもこうなっちゃうのよね」

一番の時間ロスは
商店に寄り道した事だけど。

「お土産も色々選びたかったし」

………。

皆どうしているだろう。
どうなっているのだろう。

それじゃあ、
一年後にまた会おうと
手を振って分かれた。

「みんな、来てくれるかな?」

楽しみだけれど
少し不安もある。

「………緊張、しちゃうな」

昼に西一族の村を出た馬車は
夜に目的の場所へと辿り着く。
長い時間馬車に揺られて、
京子はうたた寝から目を覚ます。

「久しぶりだわ」

馬車を降りる。

夜でも、街は明るく輝き
人々の賑やかな喧噪。

あの一件以来
足は遠のいていた北一族の村。

ゆっくりと辺りを見回す。

兄を探して始まった旅が
いつの間にか
思わぬ事態になってしまい、

沢山の出会いがあって、
他一族のきょうだい達を知って
それは裏一族に関わる事で。

短くて、でも
とても長かったあの出来事。

一年前、
北一族の村を訪れた時は
そんな事が起きるなんて思いもしなかった。


「京子」


と、自分を呼ぶ声が聞こえる。
足を止め、
京子は振り返る。

この声は。

「………あ」

思わず声が震える。
自分の感情が分からない。
嬉しいのか、驚いているのか。

沢山の人混みの中、
その人だけが際だって見える。

「どうして、ここに」

慌てて駆け寄る京子に
微笑みながら彼は答える。

「どうしてって」

京子の伸ばした手を
ほら、間違い無く彼は握り返す。

きちんと
ここに居るぞ、とでも言うように。


「約束したから、な」



T.B.1998
約束の夜。北一族の村にて



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