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TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「約束の夜」245

2020年10月13日 | 物語「約束の夜」
谷一族の村、夜はバーになる軽食屋。
時計を見上げた店主は
ホールに声をかける。

「もうこんな時間か、
 今日は上がっていいぞ、マーシ」

テーブルを片付けていたマサシは
あら、と振り返る。

「はいはい。
 それじゃあマスター
 お言葉に甘えて」

エプロンを外し、身だしなみを整えた後
お疲れ様、とマサシは店を後にする。

「マーシ、仕事上がりかい?」
「寄って行きなよマーシ」

通りすがりに駆けられる声に
やあやあ、とマサシは返事をする。

谷一族は鉱石で栄えた村。
皆が顔見知りのような関係。

「あ、マーシ、これからの時間は空いている?」

女の子達が手を振る。

「噴水広場のお店が
 今おいしいスウィーツを出しているの。
 食べに行かない?」
「えぇ、なにそれ。魅力的ね」
「そうだよ。
 2時間食べ放題」

つまり女子会へのお誘いである。

「うーん、とっても気になるけれど
 また今度」
「ありゃ、残念」
「ごめんね。今日は先約があるのよ」

「なあに、デート?」

ふふふ、とマサシは人差し指を唇に当てて
眼を細める。

「そうよ。
 今日はワタシがエスコートするの」

それじゃあね、と立ち去るマサシを見送りつつ
遺された女の子達はほう、とため息をつく。

「マサシの恋人って誰なんだろう」

マサシは途中、店で食材を買い求め、
大きな紙袋を抱え村の奥へと進む。

観光客や他一族があまり立ち寄らない、
谷一族の民が暮らす居住地区。

奥に入り組んだ、
けれど通い慣れた道をすいすいと進む。

何度目かの角を曲がった所。

小さな緑の屋根の家の扉を叩く。

「はあい、開いているわ」

中からの返事に
カチャリと扉を開く。

「鍵ぐらいかけてなさいよ」

不用心じゃない、と呟くマサシに
あら、と声の主は答える。

「ついさっき開けたばかりなのよ。
 だってマサシ、
 あなた、いつも約束の10分前にはやって来るでしょう」
「………そうだっけ?」
「そうよ、
 私を誰だと思っているの?」

あなたの事ならなんでも知っているのよ、と。

そうだったわね、と
苦笑いしてマサシは彼女に近寄りそっと抱きしめる。

「そりゃそうか、ただいま母さん」

うんうん、と
笑うと目尻にシワが寄るようになったマサシの母は
マサシを抱きしめ返して答える。

「おかえり、マサシ」

同じ村に住んでいても、
マサシほどの歳になれば
親元から離れてそれそれに暮らす。

時々マサシはこうやって母親を訪ねて
夕食を共にしている。

「うーん、今日のパスタはいつもと違う。
 腕を上げたわね、マサシ」
「気がついた?
 北一族の村で手に入れたスパイスを入れてみたの」
「いいわぁ、これ」
「半分置いていくから、今度料理に試してみたら?」
「あら助かる」

さて、デザートでも、と
立ち上がったマサシに母親が問いかける。

「ところでマサシ、
 おなかの傷はもう大丈夫?」

おや、とマサシは驚く。

裏一族との戦いで
センの短刀をうけた傷。

「いつのことを言ってるのよ。
 傷なんてとうの昔に塞がって、
 もう何ともないわよ」

やだわ、と手を振る。

「でも、跡が残ったでしょう?」
「………ええ」

す、と服の上から
マサシは傷跡をなぞる。

「弟妹を守る戦いで付いた傷だもの。
 むしろ勲章だわ」

「あら、勇ましい」
「そりゃそうよ」

だって、とマサシは答える。

「ワタシは長男であり長女なんですからね」

デザートとワインを持って
席に戻ったマサシは
母親のグラスを満たしながら言う。

「さて、それじゃあ、
 ワタシのカワイイ弟と妹たちの話をしてあげるわ。
 そうね、まずは―――」

洞窟の中にある谷一族の村。
そこにも夜は訪れる。
が、マサシの話しは途切れることもなく、
今日も長い夜が過ぎていく。



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