「あれ?京子、具合悪い?」
病院の待合席で
医師見習いが京子に問いかける。
「全然大丈夫よ」
「いや、大丈夫って言っても」
何も具合が悪くて
病院を訪れている訳では無い。
狩りを行う西一族は
獣が持つ病を貰わないように
定期的に予防接種を受けている。
今日はそれに来た。
狩りに参加する者の義務だ。
やがて診察室に呼ばれた京子に
医師の高子(たかこ)が言う。
「京子、顔色が悪いわよ」
「ちょっと眠れなかっただけだから
元気よ。私」
うーん、と
高子はペンを動かす手を止める。
「それじゃあ、きちんと眠れた時に
また出直してきて。
体調が悪いときには打てないわ」
「ええぇ」
「体が弱っている時には
無理しない方が良いの」
そう言われたのなら
もう京子に反論は出来ない。
嫌々渋々、と頷く。
「はぁい、そうします」
その様子に、高子が笑う。
「どうして、眠れなかったの?」
「……それが」
「言いたくないならいいわ」
「いや、その、先生あの」
言いづらそうにしている京子に
高子が首を傾げる。
「私、幽霊、見たかも」
えふん!!!と
高子の後ろに控えていた医師見習いが吹き出す。
彼はすぐに高子につまみ出される。
「もう大丈夫よ、
あいつには後から説教しておくから」
恥ずかしさで真っ赤になっている京子を
なだめるように言う。
「どこで見たの?」
「家の庭で、
でも、夢だったのかも。
うとうとしてた時だし」
「そうかもしれないし。
本当に見たのかも知れないわ。
どちらにせよ、
あまり気にしない方が良いわよ」
怖い思いをしたわね、と
なだめる高子に京子は答える。
「怖くはなかったの、でも」
「でも?」
あれは。と
京子は言う。
「お兄ちゃんだったかも」
高子が息を呑む。
耀が失踪していることは
村人のほとんどが知っている。
「京子」
「お兄ちゃん、やっぱり
死んでいるのかしら」
「ねぇ、幽霊じゃなく、
本当にあなたの様子を見に来ただけなのかも」
「だったらなぜ、
家に帰ってこないの」
「事情があるのかも知れないわ。
悪い方に考えてはダメよ」
「……ごめんなさい。
ありがとう、先生」
「いいえ、
落ち着いたら、またいらっしゃい」
「ふふ、
高子先生、お姉さんみたい」
そうだったら良いのにな、という京子に
高子はそうね、と答える。
少し気持ちも落ち着き
京子は病院を後にする。
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