TOBA-BLOG

TOBA2人のイラストと物語な毎日
現在は「続・夢幻章伝」掲載中。

「約束の夜」243

2020年10月06日 | 物語「約束の夜」
誰も物音を発さない静かな時。
時々僅かに吹く風で、森の木々が揺れる。

物陰で、
京子は息をひそめる。

「………」

タイミングを逃さないように、と
思えば思うほど
矢をつがえた手が震える気がする。

汗でにじんだ手のひらを
ぬぐって
すうっと息を吸う。

「行ったぞ!!!」

班長の声と共に
追われて来た獲物が
辺りの物をなぎ倒しながら駆けてくる。

「了解!!」

京子の手前で控えていた向が
武樹を振るう。

そこで向が致命傷を与え
止めを京子という予定。だった。

向の手が滑る。

「ッツ、京子すまん」

ほとんど弱っていない状態で
こちらに向かってくる獲物。

身を引いて体勢を立て直すべき。

けれど、京子は目にした事がある。
たった一撃の矢で獲物を仕留める、
そう言う狩りの仕方を。

「………」

向かってくる獲物を正面に、
すっと矢を引く。

「京子?」

すとん、と矢を放つ。
それは、そのまま正面に。

「当たっ」

当たらない。

「あああ、ダメか~」

ぱっと弓を手放し
使い慣れた短刀を持ちなおす。

「えいや!!」

京子が投げた短刀は獲物を捕らえる。

「いいぞ、後は任せろ」

向と、班長の巧、
そして、今日は獲物を追い込む係だった華が
駆けてきて皆が合流する。

「よし」

止めをさした巧が
京子に向き直る。

「京子、よっぽどじゃない限り
 さっきみたいな狩りは危ないぞ」
「そうよ、今日は小さい獲物だったから良かったけど
 大型のだったら危なかった」

今日の獲物、野生の子ヤギ。
猟犬と同じか小さい程の大きさ。

「いや~私も流石にイノシシとかクマには
 ああいうことはしないわよ」

かつて見た、センの狩りの真似なんかしてみたり。

「それにしても、巧達の班は
 チームワークばっちりね」
「そうかな。
 京子もウチの班に入る?」

大歓迎だよ、と華が言うが
京子はありがとうとだけ答える。

「そのうち世話役が
 どこかの班に割り振ってくれるでしょう」

「そうか、早く決まるといいな」
「美和子もどうしちゃったんだろう」

美和子が失踪して、
よく同じ班だった京子は
今、固定の班がない状態。

あちこちの班に加えてもらい
狩りに参加している。

「うん」

チドリはああ言っていたけれど、
もしかしたら、なんて
京子は思っている。

「気長に待つわ、美和子も、お兄ちゃんの事も」

「京子、………あ」

大変、と華が声をかける。

「京子ここかすり傷」
「あら、本当、
 さっき獲物を押さえた時かな?」

大丈夫よ、と手を振るが
そうはいかない、と巧が言う。

「あちこちどんな菌があるか分からないんだ。
 もどったら消毒をしてもらえ」
「ううん」
「返事はきちんと」

「はーい!!」

と言うわけで。

「きちんと来たのね、偉い偉い」

ふふふ、と西一族の医師である高子は笑う。

「消毒だけだから、
 稔で充分なのに」
「今、外回りで出掛けているのよ」

急がしい高子の手を煩わせるのも
なんだか申し訳無い気がする。

「京子、そういえば、
 髪切ったのね」
「そうなのよ。どうかしら?」
「似合っているわ。
 どうしたの、心機一転?」

「そんな所かな」

村に戻ってきて、
京子は母親とゆっくり話しをした。
どんな旅だったか、何があったのか。

父親の事、きょうだいの事。
兄の、耀の事。

「結局、連れて帰れなくて」

折角生きていると分かったのに。
結局、耀は裏一族に留まった。

それまでの事を知った京子の母は
流石に情報多すぎて暫く唸っていた、けれど、

「いいのよ」
「でもお母さん」
「京子が無事に帰ってきただけでも何より」

ほら、と手を握り
母親は笑う。

「母さん待つのは得意なの。
 大丈夫よ、必ず戻ると言ったのでしょう。
 耀は約束を守る子だもの」

兄と同じ顔で母親は笑う。
でも、その笑い方は
自分に似ていると京子は思っている。

親子だから。

「それにしても今回は結構長い遠出だったわね。
 どうだったの、北一族の村は」

高子の言葉に、京子は現実に引き戻される。

「そうそう、色々あったのよ。
 聞きたい?」
「ええそうね、でもその前に」
「うん?」

高子は、傷の消毒を終えると
京子に向き直って言う。

「まずは、これね。
 おかえり京子」

「わあ」

ありがとう、と京子は答える。
まだこれからもきっと色々な事がある。
それでも、まずは戻ってきた。
いつもの変わりない日常に。

「そうだね、うん、
 ただいま、高子!!」



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