自動車産業及び販売の世界的な状況が、ここ2~3年で大きく変動している。中国の大手自動車会社に成長した「BYD(比亜迪)」やアメリカの大手自動車会社に成長した「テスラ」などのEV(電気自動車)の新車販売数が世界的(※特に中国、東南アジア諸国も)に、2020年~24年に急増していることが大変動の要因となっている。
今年の4月25日から5月4日まで、4年ぶりとなる「北京モーターショー」が開催された。主役はEV(電気自動車)などのいわゆる「新エネルギー車」で、過去最多となる278車種が展示された。昨年度2023年、世界各国の自動車輸出台数では、中国が初めて首位となる約491万台。日本は約442万台(※前年比16%増)。そして、世界最大の自動車市場である中国市場での2023年度の日本車販売数は、日本の各メーカー共ともに、2022年度に比べ減少した。(※トヨタ190万7600台/前年比1.7%減、ホンダ123万4181台/10.1%減、日産79万3768台/16.1%減など)
東南アジア最大の自動車生産拠点国となっているタイのバンコクでも、3月27日から4月7日までバンコク2024国際モーターショーが開催された。開催期間中の自動車購入予約台数は5万3438台。そのうちEVの購入予約は約32.8%を占め、前回の21.5%を上回った。
メーカー別では、トヨタが8540台で、中国EVのBYDが5345台で続いた。主催者は、「中国のEVが人々の注目を集めた」と述べた。タイなどでは長らく日本メーカーが支配的地位を占めてきたが、中国やアメリカのテスラ社EVの隆盛が試練となってきている。(※これまでASEANにおいて日本車は90%を超える圧倒的シェア―を維持してきた。しかし、2023年は中国ブランドなどの台頭により、日本車のシェアは78%に減少した。)
日本メーカーがこれまでのシェアーを守りぬくのは相当厳しい状況になってきているのは間違いなく、今後は強みのあるハイブリッド車の車種を増やしつつも、諸性能と価格競争力のあるEV車の投入が不可欠となってきているようだ。(※トヨタなどは、今後10年~20年の世界戦略[新たな諸性能を持ったEVの投入も含めて]を持っているようだ。このことは、このシリーズの三回目か四回目あたりで書く予定。)
中国国内では都市部を中心にすでに約273万箇所のEV充電施設(スタンド)があるとされている。(※携帯電話アプリで付近の電気EV充電スタンドの所在地を即座に見られる。) 日本でも今後のEV車の普及を見越して、東京都などでは2025年以降の新築マンションの建設には、EV充電器施設の設置が義務付けられた。(※日本国内でも日本メーカーのEV車「日産社の"さくら"」などのCMなどもテレビなどで見られるようになってきている。また、中国のBYDも日本市場に進出してきている。中国では2024年度のEV車販売は、販売される約2300万台の自動車のうち、約40%を占めるとみられている。)
中国の調査会社、北京群智営銷諮詢(シグマインテル)は5月14日、中国自動車メーカー車が2024年の中国国内新車販売市場に占めるシェアーは60%~70%となるとの予測を示した。一方、外資(日本・ドイツ・アメリカなど)は苦境に追い込まれ、韓国系やフランス系は中国市場からの撤退を余儀なくされるとの見方だ。(※日本系とドイツ系はともに中国での2024年シェアは12~15%、米国系は7~8%、韓国系・フランス系は1%前後と予測されている。)
日本のメーカー「ホンダ」は、この5月、中国国内の工場での正社員の希望退職を1700名募集し、人員削減を行うことを発表した。中国市場での販売の低迷が背景にある。ホンダの昨年(2023年)の中国での販売台数は122万台余りと、ピークだった2020年度と比べて約30%減少し、人員を減らして生産能力を調整することとなった。(※ホンダは中国でのEVの専用工場を今年後半に稼働させる予定で、中国での事業の再編をする予定。)
—EV(電気自動車)とは—
従来のガソリン車はガソリンを給油してエンジンを稼働させる。電気自動車(EV)は電気をバッテリーに充電してモーターを稼働させる。ガソリン車の場合は、5分ほどで満タン給油できるが、EVの場合は、最速施設で15分、普通使施設で30分~40分、住居施設の場合は8~15時間をかけて100%充電が可能。また、走行距離がガソリン車に比べて短い(車種により200km~600km)や車両価格が高額(※ガソリン車に比べて100万円以上高い。) そして、寒冷地や寒冷な季節に弱い。(気温がマイナスになると稼働が弱くなり、マイナス10度になるとさらに弱くなる。)
EV車のメリットとしては、「CO2を排出しない、揺れや振動が少ない、ガソリン車よりも燃料費が抑えられる」「その他いろいろ」などがある。
中国は現在、不動産バブルの崩壊が起きていて、国の経済は長期的な不況期に入っている。また、2010年より中国経済を不動産産業とともに牽引(けんいん)してきたIT企業・AI関連企業もまた、その隆盛期のピークを過ぎ、経済的な成長が鈍化しきている。
しかし、次期の経済成長を牽引するものとして位置づけているものが「EV自動車の世界的シェアの拡大」「太陽光発電(SORA)の開発と世界的シェアの拡大」、そして「半導体の独自開発と世界的シェアの拡大」だ。すでに、EV向けバッテリーの世界市場において、中国の企業である「CATL」と「BYDは世界1位と2位のシェアをもっている。両企業のシェア率を合わせると、世界の約半分以上を占めている。
そして、アメリカのEV自動車会社「テスラ」と中国の「BYD」、さらにこの二社と中国の振興メーカー(「Xiaomi」など数十社)や日本・ドイツなどの自動車メーカーなどとの熾烈(しれつ)な開発・販売競争が展開されている大激動の世界の自動車産業の時代に突入している。
■中国政府は、「従来のガソリン車(エンジン車)では、日本やドイツ、アメリカなどの先進国の自動車技術に対抗できない」と考え、2000年代に入り、「CATL」「BYD」などのバッテリーの開発に力を注ぎ、将来のEV車到来の時代の準備をしてきたとも言える。
■中国では国内でのEV車のシェアを拡大するために、さまざまな政策をとっている。首都の北京や経済都市・上海などの大都市で車を購入することは容易ではない。(年間購入台数制限があるため) このため抽選などで購入資格を得るという方法がとられている。また、抽選で当たって車を購入できたとしても、例えば上海市の場合、ナンバープレート取得のための供託金としてガソリン車では150万円ほどが必要となる。
しかし、EV車であれば抽選に当たりやすく、供託金もなく無料でナンバープレートが発給される。また、購入時に政府からの補助金も得ることができる。このようにして国内でのEV車のシェアを急拡大してきている。海外への輸出に関しても、手厚い中国政府の資金的な支援のもと、他国のシェアを減少させ、中国のシェア拡大を広げてきている。
■アメリカのEV自動車会社「テスラ」のCEOであるイーロン・マスク氏は、昨年度の世界長者番付で2位となっている人物でもある。
※このシリーズは次号に続く。
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