彦四郎の中国生活

中国滞在記

滋賀の"ラピュタ"とも呼ばれる土倉鉱山跡—付近の山々にはブナやトチノキの巨木林群が

2021-07-16 10:42:20 | 滞在記

 7月12日(月)、京都への帰路、滋賀のラピュタとも呼ばれる土倉鉱山跡地に立ち寄ってみることにした。湖北のJR木ノ本駅付近から杉野川沿いの国道303号線をかなり走ると八草トンネルがあり、そこを抜けると岐阜県に入る。そのトンネル手前(滋賀県側)の近くの沢に土倉鉱山跡地があるようだった。

 この日、北国街道の木ノ本"東野"集落付近からの間道(近道)を通り、国道303号線に合流した。杉野川沿いのいくつかの集落を通過して、ようやく杉本という集落に着いた。東野からここまで約20kmほどあった。(JR木ノ本駅からだと約15kmほどかと思う)  この道々は初めて行くところだった。

 茅葺屋根の民家も残る杉本集落。奥地のあるためか、この季節にはまだアジサイも美しい。そして合歓木の花もたくさん見えた。古民家の旅館もあった。杉本集落を過ぎると「杉野小中学校」が見えた。さらに杉野川上流に行くと金居原という集落に入った。金居原は「合歓の里」とも呼ばれている。

 この金居集落からほど近いところに土倉鉱山跡があるようだ。国道303号線を金居集落から八草トンネルに向かう途中に細い脇道があり、そこから土倉鉱山跡地に行けるようだ。その脇道を見逃さないように車を走らせる。「あっ、この脇道かもしれない!」と気づく。脇道に入ると「土倉鉱山跡まで1.8km」と書かれた小さな木の看板が。ここから土倉谷の渓流沿いの林道を進む。また「⇦土倉鉱山跡地350m」の小さな目印板があった。そこから道はさらに狭くなる。とすると、すぐに、自然と同化している古代遺跡を思わせる建築物がそびえ立っていた。土倉鉱山第三(三代目)選鉱場跡の建物だった。

 草木に覆われている選鉱場の建物跡が山の斜面に残り、木々に包まれている。その姿がアニメの名作「天空の城ラピュタ」の舞台を思わせると、インターネット上では「滋賀のラピュタ」とも呼ばれている。

 立ち入り禁止の貼り紙とともに、この選鉱場のことが次のように書かれていた。「ここに遺されているのは3代目の選鉱場。1942年(昭和17)から閉山の1965年(昭和40)まで稼働しました。ここから2km先の奥土倉には先代の選鉱場(2代目)も残っています。土倉鉱山は最盛期には従業員366人とその家族など約1000人の人がここに暮らしていました」と。

 外から見ても、その廃墟感というか、ラピュタ感がみてとれる。斜面に階段状に何段にもつくられている建築物に上がることはできないが、少し整備して最上段まで上がれるようにしたら、さぞかし素晴らしいスポットになるだろうと思われる。最近では、土日になると、漫画やアニメのコスプレを着た若い人たち20~30人ほどが毎週ここを訪れてくるようだ。この6月には、滋賀県の三日月知事が「地域活性化のための調査」としてここを訪れた。

 第三選鉱場跡地を少し行くと、入り口に柵をされたトンネルのようなものがあった。このトンネル内は水が流れて川のようになっていたが、水底に線路が残されている。かっては、ここをトロッコが走り、坑道から鉱石を選鉱場まで運んでいたようだ。

 土倉鉱山(銅鉱)は明治末期に発見され、1910年(明治43)から採掘が始まった。最盛期の1955~58年のころには、ここの鉱山と近くの金居原集落には180世帯、1000人が暮らしていたという。土倉地区には映画館や銭湯の他、スーパーマーケットのような店もあったようだ。また、鉱山事務所や独身寮もあった。付近は大豪雪地帯(4mほどの積雪)のため、冬季間は杉本にある小学校まで通えなくなるので、冬季分校もあった。また、麓の杉本集落には、診療所や鉱山幹部が住む一戸建て社宅もあったという。

 1965年(昭和40)に閉山となった。その閉山により土倉地区に人が住まなくなってから56年が経った今、かってここに1000人あまりが暮らしていた町の痕跡は何も見当たらなかった。選鉱場も草木に覆われ、自然に返ろうとしているかのようだった。

 ここ土倉鉱山があったあたりは1000m級の山々に囲まれる。第二選鉱場や第一選鉱場跡に至る山道の方向(北方向)を見ると、西には横山岳(1131m)、東には土倉岳(1008m)、そして北には三国岳(1209m)が見える。三国岳は、滋賀県・福井県・岐阜県の三県にまたがる高山だ。近くには三周ケ岳(1292m)があり、この二つの高山の間の稜線には夜叉が池がある。ここは私の故郷・福井県南越前町の今庄地区になる。

 この横山岳、土倉岳、そして三国岳にかけての豪雪地帯の山々はトチノキやブナ、ミズナラなどの巨木群がある地域として近年注目もされている。土倉鉱山のある杉野川源流域の「土倉の森」と呼ばれるところでは、すでに200本あまりのトチノキの巨木群が見つけられている。こうした自然環境に目を向け、長浜市(※土倉地区のある木ノ本町を含む)の「長浜森林マッチングセンター」や「金居原の歴史と森を守る会」、「滋賀県自然環境保護課」などがこの地区の調査やエコツアー・フィルドワークなどを一般人向けにも最近実施し始めた。県では2023年中に伐採などを規制する自然環境保全地区指定構想をもつ。

 この天然林巨木群と土倉鉱山跡地という地域、今回は一人ではとても行けなかったが、フィールドツアーの計画があれば、トチノキやブナの巨木群落をぜひ見に行きたいと思う。この5月下旬から6月上旬、3日間をかけて「土倉の森 秘境トレッキング 巨木と鉱山2021」が、長浜森林マッチングセンターなどの主催で行われていた。次回はいつになるのだろうか。