浪漫亭随想録「SPレコードの60年」

主に20世紀前半に活躍した演奏家の名演等を掘り起こし、現代に伝える

天才シューベルトの遺作 洋琴奏鳴曲D959

2012年08月29日 | 洋琴弾き
シューベルトの調性崩壊は洋琴作品にしばしばみられるが、其の展開に耳がなじむにはかなり時間がかかった。いったい何事が起こっているのかが分からなくなり、楽譜を譜面台に置いて何度も書かれた音符を弾いては自分なりに音楽として再構築してはみたが、どうもうまく構築できなくてもやもやが募ったことを想い出す。久々にエルドマンの戦時中の録音を取り出して聴いてゐる。

問題の個所は第二樂章に出てくる。いたって平易な言葉で語りかけてくるシューベルトが突然豹変するのは短調の単旋律が提示されて、ユニゾンでの反復が終わったところからである。半音階的な動き、オクターブ連打、トリル、和音の強打による中断、単旋律によるつぶやきのようなパッセージなどが次々と登場し、調整は混乱し心も大いに乱れる。しかし、冒頭の主題が戻ってくると何事もなかったように静かに音楽を閉じる。

なんとも言えぬ魅力に満ちてゐて僕は此の樂章が好きだ。そしてシューベルトの音楽の中で僕が最も美しいと感じるのは「追憶」や「回想」の気分に浸れる音楽だ。第四楽章のロンドがそういった気分に浸らせてくれる。此の旋律や和声進行が少年時代の佳き想い出をふっと蘇らせてくれると、なんとも云えぬしみじみとした気分になる。

エルドマンの演奏にはびっくりするくらい詰らないミスタッチが多いが、少々傷はあってもシュナーベルのやうな荒っぽさはない。シュナーベルのSP盤はHMVの復刻盤で擦り切れるほど何度も聴いた記憶があるが、最近知ったエルドマンの方に軍配を上げたい気がする。

盤は、独逸TAHRA によるリマスタリングCD TAH386-7。


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