梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

梅之旅日記’07 『奴の髪の毛』

2007年09月10日 | 芝居
「ヤツ」ではありません。「やっこ」でございます。
『番町皿屋敷』で、兄弟子の梅蔵さん、加賀屋(東蔵)さんのお弟子さんの東志也さんがお勤めになっている、青山播磨の家来、権次・権六。肩上げ付きの綿入れの着付を<捻切り>という端折り方で着る、典型的な<奴さん>のこしらえ。播磨にとってのお気に入りの二人は、遊山であろうと喧嘩であろうと、いつでも主人とともに行動しております。

序幕「麹町山王下の場」で、私は茶店の娘として一幕ずっと出ておりますが、目の前で繰り広げられる皆様のお芝居を、裏から見られるというめったにない機会。いろいろと気がつくことも多うございます。
二人の奴さんの鬘の、毛の質が周りとは違っていることを知ったのもその一つ。床山さんに伺いますと、二人の鬘は<唐毛(からげ)>と申しまして、チベット地方に生息する<ヤク>の毛を使って結い上げているのだそうです。

ヤクの毛は、細かい縮れがあり、太さも人毛よりかは太くなります。コシもありますので、この毛を鬘に使いますと、よりボリュームが出て、<強い>雰囲気を出せるのだそうです。権次・権六は、先ほど申しました通り、腕に覚えの奴さん。人毛を使うよりも、よりそれ<らしい>見た目を作ることができるのですね。ちなみに、『毛谷村』の六助の鬘も、この唐毛でできています。彼も大力のキャラクターですね。
コシもあるぶん、結い上げるのにも手間はかかるそうで、毛をまとめるために使う<鬢付け油>も多めに用いるとか。また、立役に限らず、女形の鬘でも、遊女などの<髷(まげ)>部分にこの毛を用い、立派に見せることもございますし、『連獅子』『鏡獅子』『土蜘』などの後シテがかぶるのも、このヤクの毛でございます。

中国渡来の品なので、<唐>毛なのでしょうが、そうそう入手もできなかったであろう江戸時代はどのようにしていたのでしょうね。


本日は岡山県は高梁の【高梁総合文化会館】での2回公演でした。岡山駅から<やくも7号>で、高梁川を眺めながらの移動。このところ、自然の美しさに触れる機会が全然なかった身には、車窓からの景色がしみじみ<有難く>映りました。