梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

梅之旅日記’07 『いよいよ“旅”らしく』

2007年09月02日 | 芝居
午前中に京都からJRで大津へ移動、【びわ湖ホール】中ホールにての2回公演。
旅の空の下での公演は今日が最初。やっと巡業らしい雰囲気になってまいりました。この会館は平成16年の加賀屋(魁春)さんの御襲名巡業でもお邪魔したところで、3年ぶりとなりますが、とても使いやすい楽屋仕様、広すぎず狭すぎない丁度いい舞台の寸法で、素敵な劇場だと思います。

前回は、空き時間に三井寺まで足を運びましたが、今回は茶屋娘の拵えもあり遠出は難しく、会館すぐ裏に広がる琵琶湖を眺めただけでした。でも考えてみたら琵琶湖をちゃんと見たのはこれが初めてではないかしら。単純に「広いな~」としか感想が浮かびませんのが情けないですが、あいにくの曇天、天気がよかったら、もう少し違った景色を楽しめたかもしれません。

さて、そろそろお芝居のことも書かねばなりませんね。今日は『番町皿屋敷』から《皿》のお話を。
青山播磨の家の重宝である十枚一組の皿は、用人柴田十太夫の台詞にもあるとおり、<高麗焼>でございます。萩焼のことを高麗焼と称することもあるようですが、ここは文字通り、高麗(朝鮮)渡りの焼き物と考えるのが妥当でしょう。舞台を御覧になった方はおわかりかと思いますが、お皿の色は薄青色ですから、青磁という設定なのでしょう。

このお皿、小道具方の扱いですが、ちゃんとした陶製でございます。お菊や播磨が舞台上でガッチャンガッチャン割ってゆきますが、あの割れ方、音、質感は、ニセモノでは決して出せないものだと思います。ただし、手に持っての演技がしやすいように、いくぶん軽めに作られているようで、今回の舞台稽古のおりに小道具方さんにお願いして持たせてもらって、実感することができました。
ただ、軽ければよいというわけではないそうで、やはりある程度の重みもないと、綺麗に割れてくれないのだそうです。理想的には、まっ二つに割れてくれた方が絵になり、お菊役者にとってもあとの捌きがよいそうなのですが、具合によってはそうそう上手くもいかないことがあるそうです。
皿自体は、小道具会社が作るものではなく、外部の業者さんに発注して誂えるものです(この他、和傘や籠細工、甲冑も同様)ので、その時々の場合にもよりましょうし、小道具方さんとしても、皿の割れ具合には頭を悩ませるそうです。

まして今回は巡業での上演。今後の公演用のストックが、運搬中に壊れたりする恐れもあり、いくら多めに用意をしているとはいえ、相当扱いには気を遣うようですよ。
さすがに残り30余回の公演分までは持って行けないので、途中で送ってもらい補給するんですって。