梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

舞台の後は

2005年04月14日 | 芝居
長時間であれ、一瞬であれ、出番が終わって楽屋へ戻り、衣裳を脱いで化粧を落とせば、仕事終了!となるわけですが、汗をかいたとき、手足や襟足など、洗面台では洗いきれない部分まで白粉を塗っているとき、まさかそのままでは帰れませんから、「楽屋風呂」に入ります。
三階まである楽屋棟には、一階に、大幹部俳優さん用の風呂が大、小ニ室、二階に幹部俳優と名題、名題下俳優用の風呂が一室あります。我々が利用する二階の風呂は、約六畳の浴室に、脱衣場がついたもので、浴室には家庭用のものよりやや大きく深めの浴槽が二つ、シャワーが二つございます。
ここに、最大で八人くらいがいっぺんに入ることになるのですが、楽屋風呂は、あくまで化粧を落とすところとされ、浴槽はお湯を汲むところ、浴槽に入ることは遠慮するもの、となっています。ただし、混み合っていないときなどは、さっと体を温めるくらいに、浸かることもございます。また化粧を落とすといっても、顔の部分は、風呂に行く前にある程度落としてゆくのが礼儀とされています。
礼儀と言えば、浴室に入る際には、先に入っている人に対しては、先輩後輩関係なく「お疲れ様でした」と言ってから入り、逆に出るときには「お先に失礼します」や「御免下さい」といって上がるというのも、必ず守らなくてはならないことです。また脱衣場の入り口で、履物を脱ぐわけですが、もし履物が脱ぎ散らかしてあったら、そろえて並べておく、という気配りも必要です。
また、一日のうち、風呂に入る時間は、ひと月必ず同じにしなくてはいけない、という決まりがあります。例えば「道成寺」が終わったら入ることにしたら、二十五日、そのキッカケで行かねばなりません。これは皆が好き勝手な時間に入ると、混雑を生じてしまうからなのでしょう。どうしても、いつもと違う時間になってしまったときは、「新狂言(いつもと違うこと、という意味)です。ごめんなさい」などと、断わらなくてはなりません。
なんだか窮屈なように思われるかもしれませんが、風呂場でのお喋りも楽しいですし、一人になったときなど、家よりもはるかに広いのですから、銭湯気分でのんびり湯舟に浸かっちゃったりします(誰もいないからですよ)。