梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

女形の化粧・その壱

2005年04月03日 | 芝居
前回書きました通り、昼の部はおばさん役なのですが、夜の部三幕目『籠釣瓶花街酔醒』では、「新造(しんぞう)」という、年季の浅い、新人の遊女役で出演しております。おばさん役と遊女役、役柄が変われば、化粧の仕方にも違いがあります。
何が一番違うかといえば、「顔の色」でしょう。
まずおばさんでいえば、木更津という、江戸時代の感覚でいえば
「田舎」に住む庶民の女ですから、厚化粧をしていたはずはないわけで、したがって、白粉をほとんど使わない、自然な肌色に近い顔色に仕上げます。娘だったとしても、襟元から顎の少し上くらいまでごく薄く白粉を塗り、そこからグラデーションのようにぼかしながら、顔自体をやや白めの肌色に塗って、若さを表すくらいです。
一方遊女となると、これは男の目を惹くためにしっかりとした化粧をしているわけで、襟元から顔全体まで厚く白粉を塗り、目の周りには紅を薄くかけ、陰影と色気を出します。(これを、ぼかし、といいます)
顔の色によって、その役柄「らしく」みせるわけで、これを誤ると、遊女みたいなおばさんや、田舎女のような遊女ができてしまうわけです。
顔の色の調合は、主に白粉と、砥の粉、という茶色い粉末(固形にしたのもある)を、自分で混ぜ合わせて行います。大勢同じ役で出るときは、皆が一様に同じ顔の色をしなくてはならず、化粧に不馴れな新人さんは、よく先輩達に「それじゃ白すぎだよ」とか「そんな赤い顔して!」とダメを出されます。
私もよく怒られました。こればかりは、「人の顔色をうかがう」ようにしなければならないのですね。