梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

知恵を絞って

2005年04月10日 | 芝居
再び「道成寺」のお話を。
一時間以上かかる大曲の「道成寺」。長唄も名曲ですし、踊りとしても、色々の小道具を使いながら女形の魅力をたっぷりみせる、楽しく、飽きさせない一幕でございますが、この一幕の中に、「○○尽くし」というものが何ケ所か出てまいります。
「尽くし」というのは、日本の文学、絵画、紋様などに多数見られる独特の趣向で、共通項を持つものを何種類も集めて書く、あるいは描く、というものです。
「道成寺」では、前半、お坊さんが舞のいわれについて語るセリフに、語尾が「まい」で終わる言葉を続ける「舞い尽くし」が、後半には蛇体となった花子を退治しに来た捕手たちが、やはり語尾が「とう」で終わる言葉をのべる「トウ尽くし」がありますし、長唄の歌詞では、日本全国の遊廓の名前を織り込んだ「廓尽くし」、名山の名前を連ねた「山尽くし」、計四つの「○○尽くし」があるわけですね。
このうち、「廓尽くし」「山尽くし」は、歌詞なわけですから変更はききませんが、「舞い尽くし」「トウ尽くし」は、しゃべる俳優さんのアイディアによって、変更が許されておりまして、これがなかなか頭を悩ませるものなのです。お客様の笑いを誘うような単語を見つけ、さらにその単語を導く前振りのセリフも自作せねばならず、「しらけさせては大変」とばかりに、出番前まで悩みます。「トウ尽くし」の方は、十人の捕手が、一つずつ言うだけなのでまだ良いのですが、「舞い尽くし」は、一人の役者が、五分近くもしゃべり続けなくてはならないので大変です。これはつまり、主役の衣裳替えの時間つなぎになっているわけなのですね。だいたい十数個の「~まい」を言うわけで、シュウマイ、目眩、無洗米はもう定番。暑中見舞いや苫小牧、砂糖は甘い、や世間は狭い、まで飛び出して、もうネタ切れの危機さえ感じられますが、どなたか名案をお持ちではありませんか?