梅之芝居日記

歌舞伎俳優の修行をはじめてから15年がたちました。
日々の舞台の記録、お芝居ばなし等、お楽しみ下さい。

舞台も花ざかり

2005年04月09日 | 芝居
東京は今日明日が桜の盛りのようですね。私も、花見酒はできませんが、三時から四時までのあき時間に、近くの公園に桜を見てまいりました。すでに散りはじめておりましたが、おりからの晴天のもと、しばしの花見を楽しみました。
桜といえば、今月歌舞伎座で上演中の舞踊「京鹿子娘道成寺」も、桜に包まれた春爛漫の紀州道成寺が舞台となっておりますね。同寺に伝わる<安珍・清姫伝説>をモチーフにしたこの舞踊、桜がいたるところにつかわれておりまして、大道具の背景、吊り枝(舞台の上部一面に吊るす枝、季節を表し場面の雰囲気を出す)も桜。大勢登場するお坊さんが手にするのも、桜を張り付けた花傘ですし、もちろん主人公、白拍子花子(名前も桜を連想させますね)の衣裳も、桜の模様になっております。
「道成寺」一幕で、花子の衣裳が何回変わるかすぐ解る方はよほどの通でしょう。演者の好みによってかわりますが、今月の花子役、中村勘三郎さんの場合は、黒、赤、浅葱、朱鷺、藤、白、紫、白となり、さらに今月は、花子が蛇体の本性を出す、いわゆる「後シテ」もついておりますから鱗模様の衣裳も加わり、計九番の衣裳を着ているのです。
後シテと、六つ目の白(ここは紅葉に火焔太鼓の模様)のは別として、あとは全て桜の模様です。さらにいえば七つ目の紫には、桜の花を並べて作った「麻の葉」模様、最初の黒は「枝垂れ桜に糸巻き(桜の花の大きさが、後のに比べて小ぶりになっている)」、あとは全て、「枝垂れ桜に霞」模様の刺繍になっていますが、実は最後の白だけが、ただの「枝垂れ桜」で、霞がないのです。ここでは、それまで使われていた金や朱鷺、緑や赤の糸ではなく、銀糸と薄墨色だけを使うので、霞を描いてもあまり引き立たない、ということなのかもしれませんが、「衣裳の変化が時間の経過を表しており、終盤の衣裳である白の頃はもう夕暮れで、昼間の霞も消えてしまった、ということを表現している」ということを、昔聞いたことがあります。
いずれにしても、豪華絢爛たる「道成寺」の衣裳、是非一度、場面場面での色の変化、模様の違いをじっくり見て頂きたいと存じます。