すずめ通信

すずめの街の舌切雀。Tokyo,Nagano,Mie, Chiba & Niigata Sparrows

第879号 原爆と桜と放射能

2011-04-10 13:19:22 | Tokyo-k Report
【Tokyo-k】東日本大震災による福島原発の崩壊で、日本が再び放射能の恐怖に対峙しているさなか、広島の平和記念公園を訪れた。「再び」とはいっても、私を含めほとんどの日本人が広島・長崎・第5福竜丸以後世代であるわけで、核の苛烈さは写真資料で得た知識だ。だから私は、原爆ドームに直接対面すると激しく動揺する。快晴の、お花見日和のもとでの今回もそうだった。

広島でも長崎でも、原爆の地を訪れる者はみな寡黙になる。私も黙々とドーム東側のビル街に向かい、小さな標識を見つけた。外科医院が建つそこが「爆心地(Hypocenter)」なのだった。「この上空580㍍で人類史上初の原子爆弾が炸裂、4000度の熱線が人々の命を奪った」と記してある。

添付された写真は哀しくも、大津波に襲われた東日本大震災の被災地の光景にそっくりなのだった。その近くに浄土真宗の寺があって、ほとんどの墓石に「昭和20年8月6日没」の名前が彫り込まれていた。

公園は、春の陽光を楽しむ人々で賑わっていた。ほころび始めた桜をスケッチしているおじさん、幼児を気ままに駆け回らしているママたち。平和な光景が広がっている。私も弁当を広げた。原爆の地で花見など、いいのだろうかという気分はあったのだが、広島県の観光案内に「平和公園は桜の名所です。お弁当を持ってどうぞ」と書いてあったのだ。

特等席らしい川沿いの花の下からは、若い女性たちのけたたましい嬌声が響いて来る。東京界隈では震災被災地に配慮して花見の自粛が呼びかけられ、その是非が論議を呼んでいるけれど、こちらの若者たちには無縁のことのようだ。花の季節は思い切り楽しんだらいいと鷹揚に構えていたものの、それにしても騒ぎがひどい。ところがそれがピタリと静まった。誰かが声をかけたのかもしれない。

夕暮れのお好み焼き屋のテレビで、広島市長の退任会見の様子が流れていた。オリンピック誘致に反対論調を強める報道界に、憤然としているようだった。3期務め、マスコミとの関係がギクシャクしてきたのだろう。私などは広島で五輪が開催されたら素晴らしいと思うのだが、お好み焼き屋の親父は「金がかかり過ぎて無理だと、みんな言ってるよ」とにべもなかった。「金が何だ!」と他所者は思うものの、市民は醒めているのだろう。

市長は誇れる業績を尋ねられ、新しい市民球場の建設を挙げた。そして旧球場跡地には全国から寄せられた千羽鶴の保管施設を造ることを引き継ぎたいらしい。千羽鶴は旧日銀支店ビルなどに溢れている。すべて祈りの心がこもった贈り物だが、それらを永遠に保存して行こうというのだろうか。素晴らしいことではあるけれど、期限を決めて荼毘に付す方が現実的ではないか、などと考えた。

原爆ドーム北側の旧球場は、取り壊しが始まっていた。まことに勝手ながら、その隣りに建つ黒い商工会議所ビルにも移転を願いたい。平和の灯からまっすぐ延びてドームに繋がる聖なるラインの背景は、広島城跡(写真)まで平和祈年の空が広がっていて欲しい。あの日から23983日目の旅行者の、独善的な思いである。



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