すずめ通信

すずめの街の舌切雀。Tokyo,Nagano,Mie, Chiba & Niigata Sparrows

第21号 野口みずき選手

2004-08-24 11:38:07 | Tokyo-k Report
 アテネ五輪女子マラソンの野口みずき選手の金メダルは素晴らしかった。マラソンという最も過酷な、世界トップの女性アスリートが競っているレースの先頭を、日本の、ごく普通に町で見かけそうな女性が走っている、その姿をテレビで観ながら「立派だなあ」「けなげだなあ」と感動していた私は、終盤、追いすがるケニアのヌデレバ選手を引き離しにかかる野口選手のアップの映像に、不謹慎にも「美しい!」と叫んでしまった。

 野口選手は、普通の服装でいる所を見かければ、爽やかな感じのごく普通の娘さんに見えることだろう。しかしレース終盤、サングラスを外し、ひたすら前方を見つめて走る、その姿をカメラが左側からやや見上げる角度で大写しにした時のことだ。体力の限界をすでに超えているのだろう、どこか意識は現実から昇華してしまったような、虚ろにさえ感じる野口さんの顔が、走るリズムを伝えて揺れている。

 その時だった、女性という創造物が、いつもはどこか奥深く隠している美が、彼女の表情に突然にじみ出て、溢れ出し、ほとばしったのだ。日本人女性の、というより、すべての女性の、これほど美しい表情を、だれもが絶えて見たことがなかったのではないか。そういえば、シドニー五輪の高橋尚子選手がやはりそうだった。こういう瞬間に、人間の、本当の「美」が出現するのかもしれない。

 ゴールし、苦しさにかがみこみ、医務室へ運ばれ、元気になって現れた野口選手は、嬉し涙で顔をくしゃくしゃにし、いつもの爽やかな、いつもの日本女性に戻っていた。あの恍惚とした神々しいまでの美しさは、あの瞬間にだけ現れた奇跡だったのだろう。

                            
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