
【Tokyo-k】岸壁で釣り糸を垂れる彼らに「何が釣れるの?」と訊ねると、即「イカ!」と返って来た。「たくさん釣れた?」と問うと「まだ!」と、これまた簡潔である。九州男児は一言で答えるのだ。国際貿易港の役目を終えた門司港は、レトロを売り物に観光地へと衣替えし、年間300万人の客を迎えている。下関から5分間の船旅を愉しむと、もう門司である。海峡の幅は700mしかない。われわれも車を下関に停め、フェリーでやって来たのである。

地図に眼を凝らすと、門司は九州最北部の小さな半島状の土地であることがわかる。企救(きく)半島というのだそうだ。本州側の下関と、握手をしようと手を差し出しているような、あるいは列車の連結部が、今まさにガチャンと繋がれそうな姿をしている。繋がりそうで繋がっていない僅かな水路が関門海峡というわけで、まるで人造の運河のようだ。もし本州と九州が陸続きであったら、必ずやこの地に運河が開削されているだろう。

私は6年前の同じ季節、今回と同じように下関に宿泊し、フェリーで海峡を渡って門司見物に来ている。その時も今回も、門司港駅前の山桜は美しい花を付けている。今回は門司レトロを代表する駅舎が、お色直しのためすっぽりと工事用天幕に覆われているのは残念であるけれど、レトロ地区全体の整備は進んでいるようだ。前回訪問時の1ヶ月後に開業した「レトロ観光線」のトロッコ列車は、たくさんの笑顔を乗せて走っている。

ちょうどそのころ、北九州市は「門司港レトロ観光街づくりプラン」を策定した。観光による街興しに着手して10年余、観光客は順調に増加して来たけれど。その伸びが頭打ちになっている一方、港とその後背地を含むレトロ地区の人口減少が見過ごせない状況だというのだ。つまり観光客はやって来るけれど、それが商品販売増など地域振興に繋がっていないという、街あっての観光・門司を考えると、確かに放置できない問題だ。

そこで市は、観光客の増加策とともにその回遊性を向上して滞在を長時間化させ、お金をたくさん使わせようと考えた。そのためには地域資源をいっそう発掘し、アートや文化で商店街の活性化も実現しようと戦略を立てた。そうやってこの10年で観光客を50%増やし、一人当たりの観光消費額を20%増加させ、レトロ中心地区の商品販売額を20%アップして、人口を10%増やそうというのだ。なかなかハードルの高い目標である。

計画期間の半ばを過ぎて、目標の数値はどこまで到達されているかは知らない。港界隈はそこそこ賑わっているけれど、6年前に歩き疲れてコーヒーを飲んだ後背地のアーケード街はシャッターの店がいっそう増えているようだ。日本全体が縮小傾向を強めている時代だから、これほどの資源を持つ街であっても戦略達成は簡単ではないだろう。しかし戦略も立てず手をこまねいていてはじり貧である。門司のあの手この手に注目しよう。
私たちもトロッコ電車に乗ってみた。全長2.1キロ、レトロ地区を眺め、トンネルを抜け、神事で有名な和布刈神社がある「関門海峡めかり駅」が終点だ。駅は4つしかない「日本で一番短い私鉄」だ。かつては石炭積み出しで賑わい、国際航路や貿易商館で華やいだ港は、街そのものがテーマパークのようである。岸壁でイカを狙う少年たちも、いずれ街を出て行くのだろうけれど、いつか「帰る!」と一言し、戻っておいで。(2015.3.30)


地図に眼を凝らすと、門司は九州最北部の小さな半島状の土地であることがわかる。企救(きく)半島というのだそうだ。本州側の下関と、握手をしようと手を差し出しているような、あるいは列車の連結部が、今まさにガチャンと繋がれそうな姿をしている。繋がりそうで繋がっていない僅かな水路が関門海峡というわけで、まるで人造の運河のようだ。もし本州と九州が陸続きであったら、必ずやこの地に運河が開削されているだろう。

私は6年前の同じ季節、今回と同じように下関に宿泊し、フェリーで海峡を渡って門司見物に来ている。その時も今回も、門司港駅前の山桜は美しい花を付けている。今回は門司レトロを代表する駅舎が、お色直しのためすっぽりと工事用天幕に覆われているのは残念であるけれど、レトロ地区全体の整備は進んでいるようだ。前回訪問時の1ヶ月後に開業した「レトロ観光線」のトロッコ列車は、たくさんの笑顔を乗せて走っている。

ちょうどそのころ、北九州市は「門司港レトロ観光街づくりプラン」を策定した。観光による街興しに着手して10年余、観光客は順調に増加して来たけれど。その伸びが頭打ちになっている一方、港とその後背地を含むレトロ地区の人口減少が見過ごせない状況だというのだ。つまり観光客はやって来るけれど、それが商品販売増など地域振興に繋がっていないという、街あっての観光・門司を考えると、確かに放置できない問題だ。

そこで市は、観光客の増加策とともにその回遊性を向上して滞在を長時間化させ、お金をたくさん使わせようと考えた。そのためには地域資源をいっそう発掘し、アートや文化で商店街の活性化も実現しようと戦略を立てた。そうやってこの10年で観光客を50%増やし、一人当たりの観光消費額を20%増加させ、レトロ中心地区の商品販売額を20%アップして、人口を10%増やそうというのだ。なかなかハードルの高い目標である。

計画期間の半ばを過ぎて、目標の数値はどこまで到達されているかは知らない。港界隈はそこそこ賑わっているけれど、6年前に歩き疲れてコーヒーを飲んだ後背地のアーケード街はシャッターの店がいっそう増えているようだ。日本全体が縮小傾向を強めている時代だから、これほどの資源を持つ街であっても戦略達成は簡単ではないだろう。しかし戦略も立てず手をこまねいていてはじり貧である。門司のあの手この手に注目しよう。

私たちもトロッコ電車に乗ってみた。全長2.1キロ、レトロ地区を眺め、トンネルを抜け、神事で有名な和布刈神社がある「関門海峡めかり駅」が終点だ。駅は4つしかない「日本で一番短い私鉄」だ。かつては石炭積み出しで賑わい、国際航路や貿易商館で華やいだ港は、街そのものがテーマパークのようである。岸壁でイカを狙う少年たちも、いずれ街を出て行くのだろうけれど、いつか「帰る!」と一言し、戻っておいで。(2015.3.30)

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