【Tokyo-k】毎年6月になって鮎釣りが解禁されると、釣りキチはお気に入りの渓流へと飛び出し、友釣りに没入するのだけれど、釣りキチでない私は家に居て、「今年こそ鮎を食べるぞー」と雄叫びを挙げる。そんなことを繰り返して10年余になろうかという今年、とうとう我慢できずに家を飛び出し、寄居の料理旅館にやって来た。世の中、美味しいものはたくさんあるのに、この季節になると、無性に鮎の塩焼きを頬張りたくなるのである。さあ、食べよう!
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【Tokyio-k】この景色を前にしたら、腕を思いっきり広げて深呼吸したくなる気分は、後方で写真を撮っている私にもよく解る。あいにくの梅雨空でも実に清々しい風景なのだ。秩父盆地の水が荒川を中心に全て集まって、関東平野に出て行こうとする長瀞である。「瀞」とは「水が深くて淀み、流れの緩やかな川の状態」を言う。岩に囲まれた瀞が続く長瀞は、「地球の窓」とも呼ばれる日本地質学発祥の地で、名勝が乏しい埼玉では、とっておきの観光地なのである。 . . . 本文を読む
【Tokyo-k】熊谷のイメージが「日本一暑い街」と定着して久しい。今年も天気予報でその名を耳にするようになり、頭上から冷えたミストが降り注ぐ駅前広場の映像が紹介される季節になった。この霧を浴びるとどれほど涼しいのか、体験したくてやって来た。だが今日は生憎というか幸いなのか、「気温28度以上・湿度75パーセント未満・風速3メートル未満・降雨なし」というミスト運転条件が満たされていないのだろう、装置は休養日のようである。 . . . 本文を読む
【Tokyo-k】大田区池上の本門寺は、日蓮終焉の地に建立された大寺と聞くから、いつか行ってみたいと思っていた。私は信仰心が乏しいのでお参りをしようというわけではないのだけれど、多くの信者が心の拠り所とする「場」の神聖な雰囲気は嫌いではなく、敬意を払うべきだと思っている。だから伝統的な神社仏閣には神妙に立ち寄る。大森貝塚遺跡庭園を見物し終え公園前のバス停に行くと、ちょうど池上行きバスが到着し、私を本門寺へ運んでくれた。 . . . 本文を読む
【Tokyo-k】大森貝塚を再訪しようと、品川駅で京浜東北線に乗り換えた。次の大井町駅に到着したところで「大森駅まで行って少し戻る」という当初計画を変更し、ここから歩いてみるのも一興だと思い付いた。慌てて飛び降りて「60年になろうかという私の東京暮らしで、初めて下車する駅だ」と気が付く。東京には、まだ知らない街が多いのだと、楽しみが残っているような気分になる。西口を出ると、歩道に奇妙なコンクリート柱が並んでいる。これは何だ?
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【Tokyo-k】大森駅東口から平和島循環という路線バスに乗る。東京湾の人工島である平和島は、羽田空港に向かうモノレールで通過したことは何度もあるけれど、バスという地上目線から眺めるのは初めてである。巨大な物流基地だとは承知していたものの、1200万都民の欲望を満たす迫力と言ったらいいか、倉庫群の規模は私の想像を超えている。20分ほどかけて島を循環したバスは運河に近づき、私は下車する。「大森海苔のふるさと館」に行くのだ。 . . . 本文を読む
【Tokyo-k】大森という街の名を耳にすると、私の場合、思い浮かぶのは「貝塚」と「海苔」である。東京湾に臨む大田区大森のことだ。「いまさら」という思いもしないではないけれど、今日は貝塚の地に立ってみようと大森へやって来た。私は大学に入学して1年ほど、新橋から横浜へJR京浜東北線で通学した。その往き帰り、毎日のように「大森貝塚」の碑を眺め、(いささか格好をつけて言うと)日本の考古学の曙を想ったものである。その懐かしさがある。 . . . 本文を読む
【Tokyo-k】北の野毛山と南の山手丘陵に挟まれた限られた地域に、開港場と外国人居留地が開設されて始まった横浜の街は、160年ほどで人口が377万人を突破、世帯数は180万に達しようとしている。日本で最も人口の多い「市」であり、都道府県に当てはめると静岡県を上回る10番目の「県」のようなものだ。面積は全自治体中249番目らしいが、神奈川県では一番広い。18の行政区に分かれ、関内や本牧を含む中区は発祥以来の横浜の中枢である。
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【Tokyo-k】この写真は11年前のこの季節に撮ったものだ。並木の緑があまりに美しいのでシャッターを押したところ、可愛いチビちゃんたちが写り込んでくれて、塩尻の記念に保存しておいたのだ。二人はもう中学生だろう。市役所近くの並木道である。今日は中津川から乗った「特急しなの」を降り、乗り継ぐ「あずさ」を2本やり過ごして同じ道を歩いている。塩尻はこうやって、乗り継ぎの短時間を歩くことが多い。この街が鉄道網の要衝である証である。
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【Tokyo-k】島崎藤村は『夜明け前』で、主人公・半蔵に「あの山の向こうが中津川だよ。美濃は好い国だねえ」と語らせている。そこは馬籠宿下の「これより北 木曽路」となる十曲峠でのエピソードである。古い街道の本陣を守る定めに縛られ、世の変動に届かないもどかしさと苦悶する半蔵にとって、中津川は峠から遠望する「大きな世」であったのだろう。ここには「街と鄙」の象徴的な対比がある。時代が激しく移ろって行く渦中での「所在の差」である。
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【Tokyo-k】馬籠宿を登り切ると、山肌を均した展望スペースが整備されている。その広場に立つと視界は一気に広がって、気分も晴れ晴れと軽くなる。南は恵那山(2191m)の稜線が緩やかに流れ、西は幾重にも重なる尾根が遠く靄って消えて行く。妻籠からつづら折りの峠道を越えて来た眼には、ふわりと空中に誘われるような爽快な眺めである。西へ東へ、近世の列島を行き交った旅人たちは、この辺りで私と同じ感慨に耽り、一息ついたことだろう。
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【Tokyo-k】全国ニュースで取り上げられるほど、中山道・妻籠(つまご)宿が外国人観光客で賑わっていることは承知していた。しかし実際にやって来て、「こんなにも!」と驚いている私である。英独仏に中国語、さらには東南アジアのどこかの言葉やロシア語らしき会話が「山の中」で交錯している。これでは宿泊予約が取れないのも当然かと納得するのだが、それにしても皆さん、何を求めてわざわざここまでやって来るのだろう。不思議な思いで立ち止まる。 . . . 本文を読む
【Tokyo-k】日本列島で「海から最も遠い地点」は、長野・群馬県境の佐久市田口榊山の山中であることが、国土地理院により特定されているのだそうだが、そこから南西に直線距離で100キロほど離れた「木曽」も、同じくらい太平洋からも日本海からも離れているように思われる。かの文豪が描いた通り、「木曽路はすべて山の中である」のだが、そうした土地はこの山国ではいたるところにある。しかし木曽は、何か特別な匂いがする「山の中」なのである。
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【Tokyo-k】「今年のお花見は鎌倉で」ということになって、大船駅に近い大船フラワーセンターに集合した。例年になく早い開花で世の中がそわそわしている今春、鎌倉界隈はすでに花吹雪が始まっているようだ。久しぶりの好天に、枝振りの良い樹の下では多くの家族連れがシートと笑顔を広げ、チビッコの駆け回る歓声が響いている。園内は飲酒禁止のようで、花見につきものの喧騒はなく、そろそろお酒を卒業したい私にも相応しい、穏やかな花見である。 . . . 本文を読む
【Tokyo-k】東京駅丸の内北口の2階回廊から、コンコースを往き交う人たちを眺めている。ホームから降りて来る人々と、電車に乗ろうと改札を入って行く人たちが交錯を続ける広いコンコースは、都市の息遣いがこだましている。私はステーションギャラリーで開催中の「佐伯祐三展」を観てきたのだ。駅舎にあるギャラリーは、観終わるとこの回廊に出ることになる。だからしばらく人の流れを眺めることで、パリの街角へと浮遊した意識を戻そうとしている。 . . . 本文を読む