すずめ通信

すずめの街の舌切雀。Tokyo,Nagano,Mie, Chiba & Niigata Sparrows

第1857号 塩尻でワインの味を夢に見る

2023-04-30 07:54:28 | Tokyo-k Report
【Tokyo-k】この写真は11年前のこの季節に撮ったものだ。並木の緑があまりに美しいのでシャッターを押したところ、可愛いチビちゃんたちが写り込んでくれて、塩尻の記念に保存しておいたのだ。二人はもう中学生だろう。市役所近くの並木道である。今日は中津川から乗った「特急しなの」を降り、乗り継ぐ「あずさ」を2本やり過ごして同じ道を歩いている。塩尻はこうやって、乗り継ぎの短時間を歩くことが多い。この街が鉄道網の要衝である証である。



木曽谷の新緑を飽きるほど眺め、新鳥居トンネルを抜けて塩尻に近づくと、松本平の南端に到達して視界が広がる。日本の風景では、たいがい田植えの準備に入った水田が広がっているころあいだが、ここでは違ってブドウ畑がどこまでも続いている。塩尻がワインの産地だとは知っていたものの、こうした風景が広がっているとは思いがけなかった。まもなく葉が繁り、一帶は緑に埋まるのだろう。日本のナパ・ヴァレーと言っていいだろうか。



北方に銀嶺が連なっている。北アルプスだろう。見えているのは穂高連峰や常念岳だろうか。ずいぶん大きくて清々しい見晴らしである。この風土がブドウ栽培に適しているのだろう、明治の中ほどに栽培が始まり、程なくワイン醸造も着手される。そして100年後、国際コンクールで2年連続大金賞を受賞し、銘醸造地としての地位を確立したのだという。先人の苦労は並大抵ではなかっただろうが、成果はしっかり受け継がれ、子孫を潤している。



そのことは国税庁が発表している「国内製造ワインの概況」で知ることができる。2019年時点での国内ワイナリーは331場あり、山梨県が85と群を抜いているものの、長野県は38で2位だ。国産原料で製造される「日本ワイン」の生産量は16612キロリットルで、これは国内製造の全ワインの20%に当たる。長野県は山梨県に次ぎ、日本ワインの23.8%を占める3950キロリットルが製造されている。多くが塩尻ワインなのだろう。



塩尻市は国のワイン特区に指定されている。酒税法で規制されているワイナリー設立の要件を緩和し、小規模でもワイン作りに取り組めるようにする構造改革特区だ。酒類の消費量は漸減傾向らしいけれど、特区の中でブランドがさらに磨かれていくのが楽しみだ。ナパのワイナリーをはしごした記憶は、私の旅の中でも楽しくて美味しい体験だった。いずれ塩尻はナパのようなワイン郷になっていくことだろう。土産に「メルロー」を買う。



それにしてもいまだに分かりにくいのは、塩尻駅を行き来する路線の不思議さだ。中央本線の特急である「あずさ」は、塩尻から西へは向かわず、北方の松本を経て大糸線に乗り入れる。一方、西から来る「しなの」は東へは向かわず、篠ノ井線経由で松本・長野に向かう。東京―名古屋は中央本線で繋がっているのかいないのか、直行できないのだ。さらに塩尻の手前では中央本線が2手に分かれ、辰野を迂回し、塩尻から飯田線が通じていたりする。



かわいいチビちゃんたちには会えないだろうが、並木の新緑を眺めたくて市役所に向かう。ところがバッサリと剪定されていて、まるで違った風景だ。がっかりしたけれど必要な手入れなら致し方ない。市役所の隣の文化会館まで足を延ばす。会館は「レザンホール」と名付けられている。「葡萄の実」という意味の仏語だそうだ。隣の公民館に人の出入りが目立つ。市議選の期日前投票のようだ。静かで穏やかな空気が漂っている街だ。(2023.4.20)














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