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おわりに

2019-10-14 10:00:00 | 子どもたちに嘘の賢治はもう教えたくない
《ルリソウ》(平成31年5月25日撮影)
〈高瀬露悪女伝説〉は重大な人権問題だ

 さてこれで、私は高瀬露の本当の姿をかなり浮き彫りにできたつもりなので、露は少なくとも巷間流布してるような〈悪女〉では決してなかった、ということを皆さんには了解していただけたものと確信し、正直、片方の肩の荷は下りた。さりながら、人権がとりわけ尊重される今の時代になってさえも、捏造された〈悪女・高瀬露〉の全国的流布を憂えてそのことを公に問題提起する賢治研究家は上田哲以外には現れないのだろうか、と私この現状ずっと憂えてきたのでもう一方の肩の荷はまだまだだ。
 ……と思っていたのだが、実は時代は少しずつ動き始めているし、その動きは加速しそうだ。それはまず、平成16年に佐藤誠輔氏が論考「宮沢賢治と遠野 二(賢治と交流のあった遠野人)」を『遠野物語研究第7号』(遠野物語研究所)上で公にしていたことである。そして同論考において、
 私と妻は晩年小笠原露と同じ学校に勤めていたことがある。既に子供たちを育て終え、養護教諭となっていた彼女は、人の悪口を言わない教師として、同僚から一目置かれていた。
              〈『遠野物語研究第7号』(遠野物語研究所)93p〉
と述べているように、著者の佐藤氏は職場の同僚だった露の人柄等も知っているので、巷間流布している〈露悪女伝説〉に疑問を抱き、それに与することなく、真実の露に迫っていたからである。
 次に平成27年には、雑賀信行氏が『宮沢賢治とクリスチャン花巻篇』(雑賀編集工房)を著し、その中の節「4高瀬露と高橋慶吾」において高瀬露について論じており、例えば、
 賢治は生涯、ひとりの女性ともつきあったことがなく、恋愛慣れしていなかったので、女心がまったく分かっていなかったのだ。
              〈同169p〉
と賢治の責任についても指摘したりしながら、従来の〈悪女伝説〉に疑問を投げかけているからである。
 そしてこれらの新しい動きがあるからであろうか、平成29年になると、大伊和雄氏は次のように「故意に喧伝された言動のみを声高に強調した旧来の論調に修正が加えられつつある」と前置きして、論考「小笠原露の賢治観」(『賢治学 第四輯』(岩手大学宮澤賢治センター編、法政大学出版部)所収)を著した。
 いわゆる小笠原露問題が近年再検討されて、その吃驚と見なされ、故意に喧伝された言動のみを声高に強調した旧来の論調に修正が加えられつつある。筆者は、賢治を聖人化するあまりにもバイアスのかかった議論にくみすることなく、資料による実証的な考察によって、真実を明快にし、かつて貶められていた小笠原の名誉を回復しようとする動向に賛同するものである。
 …(筆者略)…今般、入手し得た若干の資料等に基づいて、小笠原の正当な名誉回復に資すべく小論を著して、江湖における諸賢のご考察を承る次第である。
            〈『賢治学 第四輯』(岩手大学宮澤賢治センター編、法政大学出版部)91p〉
そしてその中身は、実証的な考察によって従来の言説に疑問を呈し、露に関して冷静に分析・考察しながら、小笠原(高瀬)露の名誉を回復せんとしているものであった。したがって、その動きは点から次第に面へと拡がりを見せつつあることを、とりわけこの大伊氏の論考を知って私は今実感している。

 その一方で、高瀬露は悪女はでないという私の主張を支持する人も次第に増えている。特にこの春は、ある著名な賢治研究家が「高瀬露」の講演をしたがそれは、『本日は、高瀬露は悪女でないという立場でお話をします。鈴木さんの本も参考にさせてもらいました』と言って始まるものだった。しかも講演終了後、参加者の一人が『鈴木さんの主張と同じでしたね』と私に話してくれた。
 またこの秋9月20日には、別のある著名な賢治研究家が私の『本統の賢治と本当の露』を前のテーブルに置きながら、
    鈴木さんの「高瀬露は悪女ではない」という主張はその通りで、全く異議はない。
と言ってくださった。
 よって、「高瀬露は悪女ではない」という私の主張は現段階で既に著名な賢治研究家二人からも支持してもらえたから、よほどのことがない限り揺るがないであろう。

 さてこれで、私は上田哲が未完に終わった論文を基に、そしてそれに幾ばくか補完させて貰いながら、高瀬露は〈悪女〉にさせられてしまったのだがそれはあくまでも単なる虚構であり、その「真実」は〈高瀬露は悪女とは言えない〉ということを私は実証できた。よって私自身は、上田の遺志によって命じられたと認識している課題の半分にはある程度応えることができたものとひとまず安堵している。
 ただし、まだ半分が残っている。現実には〈高瀬露悪女伝説〉が全国に流布してしまっているわけだから、これをこの世から葬り去り、貶められた高瀬露の人格や傷つけられた尊厳を回復してやらねばならない、という課題がである。とはいえ、残念ながら個人的な取り組みではその解決は殆どどうにもならないという現実もある。がしかし、だからといって手をこまねいていることは許されない。それは、露は〈悪女〉の濡れ衣を着せ続けられてきたということが少なくとも否定しきれなくなったわけで、もはや〈悪女・高瀬露〉は人権問題となったからだ。〔完〕

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 賢治の甥の教え子である著者が、本当の宮澤賢治を私たちの手に取り戻したいと願って、賢治の真実を明らかにした『本統の賢治と本当の露』

             〈平成30年6月28日付『岩手日報』一面〉
を先頃出版いたしましたのでご案内申し上げます。
 その約一ヶ月後に、著者の実名「鈴木守」が使われている、個人攻撃ともとれそうな内容の「賢治学会代表理事名の文書」が全学会員に送付されました
 そこで、本当の賢治が明らかにされてしまったので賢治学会は困ってしまい、慌ててこのようなことをしたのではないか、と今話題になっている本です。
 現在、岩手県内の書店での店頭販売やアマゾン等でネット販売がなされおりますのでどうぞお買い求め下さい。
 あるいは、葉書か電話にて、『本統の賢治と本当の露』を入手したい旨のお申し込みを下記宛にしていただければ、まず本書を郵送いたします。到着後、その代金分として1,620円(本体価格1,500円+税120円、送料無料)分の郵便切手をお送り下さい。
      〒025-0068 岩手県花巻市下幅21-11 鈴木守
               電話 0198-24-9813

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