みちのくの山野草

みちのく花巻の野面から発信。

宮澤賢治と〈悪女〉にされた高瀬露 (19~20p)

2020-12-13 20:00:00 | 濡れ衣を着せられた高瀬露
〈ハヤチネウスユキソウ〉(平成19年7月11日、早池峰山)

****************************************「宮澤賢治伝」の検証 ― 宮澤賢治と〈悪女〉にされた高瀬露―****************************************
 この論文は、昨年(2019年)末に『賢治学会』に正式に提出したものだが、「以前に同じようなものを書いているから」というような理由で門前払い(?)をされたものである(なお、私はそのような論文は以前に書いてなどいない)。
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********************************************************以下テキストタイプ********************************************************

におそれ入りますけれど あの御本を今後若し再版なさいますやうな場合は 何とか伊藤七雄を御訪ね下さいました事に御書き代へ頂きたく ふしてお願ひ申し上げます((二十六))

というように、賢治の親友だった嘉藤治に対してもちゑは似たような懇願をしている。したがってこれらのことからは、ちゑは賢治と結びつけられることを頑なに拒絶していたということが導かれる。
 一方、当時のちゑは、「キリストの愛の精神」に基づいて((二十七))スラム街の貧しい子女のために慈善の保育活動をしていた『二葉保育園』で働いていた。あるいは一時期、同園を休職して伊豆大島で兄七雄の看病をしていたのだが、その兄は一九三一年八月に亡くなったので、同園に復職して再び献身的に働いていたという。のみならず、ちゑは、たまたま大島で知った気の毒な老婆に何くれと世話を焼き、その老婆に当時毎月五円もの送金をし続けていた((二十八))という。ちゑは、まさに聖女のような女性であったと言える。
 それでは、あのような凄まじい憤りの詩〔聖女のさましてちかづけるもの〕を露とちゑのどちらをモデルにして賢治は一九三一年一〇月に詠んだということになるのだろうか。
 それについては、露が賢治から拒絶され始めたのは一九二七年の夏頃以降と言われているが、それから四年以上も経ってしまった後の一九三一年一〇月に賢治が露をモデルにして詠んだとするよりは、その直前の一九三一年七月に賢治が「私は結婚するかも知れません」と森に語ったというちゑ、しかも当のちゑは賢治と結びつけられることを頑なに拒絶していたのだから、そのモデルはちゑの方であったという蓋然性が低くない。となれば、少なくとも、モデルに当て嵌まり得る女性は露だけではないのだから、それを一方的に露だと決めつけることはアンフェアである。
 換言すれば、そのモデルがちゑではなかったということを実証できない限り、しかも、そのモデルがちゑではないことを実証したということを公にした人は今のところいないからなおさらに、〔聖女のさましてちかづけるもの〕は、先の
  〈仮説二:高瀬露は悪女とは言えない〉
の反例にはなり得ない(なお、上田は同論文において、この〔聖女のさましてちかづけるもの〕に関する言及はしていない)。
 それから、この他にもこの仮説の反例となりそうなものが、一九七七年に『校本宮澤賢治全集 第一四巻』が、「内容的に高瀬あてであることが判然としている」と付言して「新発見の書簡252c」と言って公にした一連の書簡下書群を始めとして二三あるものの、ここでは紙幅が足りないのでそれぞれの詳論は割愛させて貰うが、いずれも反例とならないことを私は既に実証済みである。
 というわけで、〈高瀬露は悪女とは言えない〉という仮説には今のところ反例が存在しないことを私は明らかにできているから、今後これに対する反例が見つからない限りはという限定付きの、〈高瀬露は悪女とは言えない〉は「真実」であるということになった。

五 おわりに
 さてここまで、未完に終わった上田哲の論文「「宮沢賢治伝」の再検証㈡―〈悪女〉にされた高瀬露―」を基に、そしてそれに幾ばくか補完させて貰いながら、主に「仮説検証

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            〒025-0068 岩手県花巻市下幅21-11 鈴木守
            ☎ 0198-24-9813
 なお、目次は次の通りです。

 また、2020年12月6日)付『岩手日報』にて、『宮沢賢治と高瀬露―露は〈聖女〉だった―』の「新刊寸評」。

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