みちのくの山野草

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岩手山焼走り(6/26、賢治の「鎔岩流」の碑)

2019-06-30 12:00:00 | 岩手山・八幡平
《1 「鎔岩流」の石碑》(平成31年6月26日撮影)

    鎔岩流
                          宮沢賢治
  喪神のしろいかがみが
  薬師火口のいただきにかかり
  日かげになつた火山礫堆の中腹から
  畏るべくかなしむべき砕塊熔岩の黒
  わたくしはさつきの柏や松の野原をよぎるときから
  なにかあかるい曠原風の情調を
  ばらばらにするやうなひどいけしきが
  展かれるとはおもつてゐた
  けれどもここは空氣も深い淵になつてゐて
  ごく強力な鬼神たちの棲みかだ
  一ぴきの鳥さへも見えない
  わたくしがあぶなくその一一の岩塊をふみ
  すこしの小高いところにのぼり
  さらにつくづくとこの焼石のひろがりをみわたせば
  雪を越えてきたつめたい風はみねから吹き
  雲はあらはれてつぎからつぎと消え
  いちいちの火山塊の黒いかげ
  貞享四年のちいさな噴火から
  およそ二百三十五年のあひだに
  空氣のなかの酸素や炭酸瓦斯
  これら清洌な試薬によつて
  どれくらゐの風化が行はれ
  どんな植物が生えたかを
  見やうとして私の来たのに対し
  それは恐ろしい二種の苔で答へた
  その白つぽい厚いすぎごけの
  表面がかさかさに乾いてゐるので
  わたくしはまた麺麭ともかんがへ
  ちやうどひるの食事をもたないとこから
  ひじやうな饗應ともかんずるのだが
   (なぜならたべものといふものは
   それをみてよろこぶもので
   それからあとはたべるものだから)
  ここらでそんなかんがへは
  あんまり僭越かもしれない
  とにかくわたくしは荷物をおろし
  灰いろの苔に靴やからだを埋め
  一つの赤い苹果をたべる
  うるうるしながら苹果に噛みつけば
  雪を越えてきたつめたい風はみねから吹き
  野はらの白樺の葉は紅や金やせはしくゆすれ
  北上山地はほのかな幾層の青い縞をつくる
   (あれがぼくのしやつだ
   青いリンネルの農民シヤツだ)
と刻されている。
 もちろん、心象スケッチ「鎔岩流」は『春と修羅(第一集)』に所収されているものだ。同詩集のこの前には「一本木野」が載っているから、もしかすると、この時の賢治はまず一本木野に立ち寄って「一本木野」を詠み、その後、歩き続けてやっと辿り着いた焼走りで、「苹果に噛みつ」きながら今度はこのスケッチを詠んだのだろうか。また、「雪を越えてきたつめたい風はみねから吹き」が事実であったとするならば、10月頃のある週末にこれを詠んだことになるだろうか。
 さて、「どんな植物が生えたかを/見やうとして私の来たのに対し/それは恐ろしい二種の苔で答へた」に従えば、この時に賢治が見た焼走り熔岩流の光景は、今目の前にしている光景よりももっと寂寥としていたのだろうか。なぜなら、「畏るべくかなしむべき砕塊熔岩の黒」には、木々が少しずつ増えてきていると思わざるを得ないからだ。そしてこのことは、やはり「砕塊熔岩の黒」の中にあると言えるであろう「駒草の径」にも年々木が進出していることからも、だ。まあ、それが自然の摂理というものではあろうが。 

《2 展望台からの岩手山》(平成31年6月26日撮影)

《3 》(平成31年6月26日撮影)

《4 》(平成31年6月26日撮影)

《5 》(平成31年6月26日撮影)

 展望台の周りには、
《6 ヤマボウシ》(平成31年6月26日撮影)

《7 》(平成31年6月26日撮影)

《8 ナナカマド》(平成31年6月26日撮影)

《9 〃の病葉》(平成31年6月26日撮影)

《10 ミズキ》(平成31年6月26日撮影)

《11 ホツツジ》(平成31年6月26日撮影)

《12 ミヤマガマズミ》(平成31年6月26日撮影)

《13 ニガナ》(平成31年6月26日撮影)

《14 シロバナノヘビイチゴ?》(平成31年6月26日撮影)


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