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みちのくの山野草

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強い自恃ときびしい自戒

2021-03-13 16:00:00 | 濡れ衣を着せられた高瀬露
〈『職業としての 出版人』(鈴木均編、中経出版)〉

 前回私は
 もともと、筑摩と御遺族の間のには始めから圧倒的な力の差があるのは私たち庶民からすば自明であり、いわば多勢に無勢だから、この論理を当て嵌めようとするのは筑摩にとっては有利かもしれないが、極めて不公平だと私は思う。それははしなくも、原田氏の次の記述、
 さいわいにして、御遺族の御了解と御寛恕を得て、出版そのものを不可として差止めをを求めるという御要求を取り下げられ、公権力も、その自由を侵害するという愚挙を避けた。私はこの結果を、素直に喜びとしているのである。
             〈『職業としての 出版人』(鈴木均編、中経出版)33p〉
の中の、「愚挙を避けた」という一言に逆に滲み出ている。編集者が「自由」を極めて尊重することはもちろん解らぬわけではないが、それは同時に「平等」も担保された下でのものでなければならないはずだが、この「愚挙を避けた」という高踏的な断定がそのことを蔑ろにしているように私からは見えてしまう。それが担保されてこそ始めて、弱い立場にある者でも、場合によっては強者の横車等に対抗できるのではなかろうか、と私は思っているし、そもそも、原田氏が次に展開している持論「強い自恃ときびしい自戒」とこの「断定」との整合性をどう考えればいいのか、浅学非才の私は思い悩んでしまう。
と、異議も含めて主張した。とても残念なことだ、と思いつつ。

 ところが、原田氏は、同論考においてこんなことも述べていて、
 しかしなぜ、私は、そして刊行者としての筑摩書房は、その社の公式見解において、次のように書かねばならなかったのか。
「今回の経験を通じて、私どもは言論・表現・出版の自由を守ることの意味の深さをあらためて痛感すると同時に、その自由を守るためには、強い自恃ときびしい自戒のいっそう深く求められることを学び得たと考えております。
 たとえば作品にかかわる差別の問題について顧みるとき、出版者としての私どもの配慮が十分に行きとどかず、差別打破のための強く明確な場所に立っていたとは必ずしも申しがたい点がありましたことも、痛切な反省とともに、さらに認識を深めつつあるところであります。」
             〈同35p〉
私は、胸をなで下ろした。それは、「その自由を守るためには、強い自恃ときびしい自戒のいっそう深く求められることを学び得た」とあり、「自恃」は当然だろうからそれはさておき、「自戒」について、「その自由を守るためには……きびしい自戒のいっそう深く求められることを学び得た」と原田氏は謙虚に語っていたからだ。
 そして同時に思い出したのは、この原田氏の「編集者の自由と責任<*1>」に関して、永江朗氏が、
 言論には言論をもって、ということが原則であり、それは川端康成の遺族に対してであれ、解放同盟に対してであれ、貫くべきことであった。言論を抹殺方向ではなく、議論を続けることによって、互いによりよい着地点をみつけることができるだろう。それが原田の考え方だった。
             〈『筑摩書房 それからの四十年』(永江朗著、筑摩選書)117p〉
と解説し、評していたということをだ。

 もう少し説明を付け加えると、先に述べたように、私は原田氏の不公平さに違和感を感じたのではあったのだがそのことは措いといて、この「強い自恃ときびしい自戒」についての一文を読んで、一寸の虫にも五分の魂が私(鈴木)にもあるのだという強い自恃を持って、おかしいことはおかしいと果敢に筑摩に挑めと、原田氏から背中を押して貰ったのだ、と解釈できたのだった。ついては、なぜ筑摩は新発見と嘯き、判然としていないことを判然としているとかたったのかとか、そしてその結果、取り返しのつかないことをしてしまったのではないですかとか、はたまた、そのことと「絶版回収事件」との間にはかなり強い関わりがあったのではありませんか、ということなどを、永江氏の言うところの原則「言論には言論をもって」にしたがって、今後挑んでみたいと決意した次第だ。

<*1:投稿者註> この「編集者の自由と責任」は、『職業としての 出版人』(鈴木均編、中経出版)においては、「編集者の仕事――その自由と責任」というタイトルになっていて、18p~40pに所収されている。

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