思惟石

懈怠石のパスワード忘れたので改めて開設しました。

『死者を起こせ』のんびりミステリ

2021-10-18 15:48:14 | 日記
『死者を起こせ』
フレッド・ヴァルガス
フランス・ミステリ批評家賞最優秀長編賞受賞作(1996)。

主人公はズッコケ歴史学者な3人組。
金なし、職なし、30代独身。
元刑事のおじいちゃんも一緒になって、男4人
ボロ屋敷で共同生活を始めます。

3人組のキャラクター分けは良いと思うし、
どうでも良い会話もおもしろい。
ミステリ的な「このあとどうなっちゃうの!?」的な
ハラハラ感はあまり無く、
キャラや会話を楽しむ系読書に良い小説。

とはいえ、ちょっと、訳がよくないですね。

貧乏とはいえ、身なりも人当たりも悪くない主人公が
商店から食材を「いただいてきた」とあるのだけれど、
「いつの間にお店の人と仲良くなったの?」
と思ったら「失敬してきた」という意味だったらしい。
(数十ページ後に同じようなやりとりがあって、
 ようやく意味がわかるんだが)
わかりにくいわ!!

会話パートでは、このセリフは誰かな?という箇所も結構多い。
まあ、呑気な気分で読むのにちょうど良い
味わいは、ちゃんと出ています。
ストーリー展開ものんびりしているので、
コージーミステリ的というか、雰囲気を楽しむ読書向き。

ところでブナの木って、そんなに簡単に植えたり
掘ったりできるのか?
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『山月記』教科書に載ってなかったけど、ずっと好きだった

2021-10-15 08:29:06 | 日記
『山月記・李陵 他九篇 (岩波文庫)』中島敦

33歳で夭折した中島敦の作品集。
特に前半に収録されている漢語書き下し文風の、
声に出して読みたいような
不思議なリズム感のある作品が、
素晴らしかった。

ほんと、音読したい。

書評サイト等では『李陵』の評価が
高いように感じたけど、
個人的にはやっぱり『山月記』が大好きだな。
文献の李徴は、中島敦の作品よりももっともっとプライドが高くて
暴力的だったらしいけれど
(まったく無意味に逆切れして放火した罪で
虎に堕したとかなんとか、ダメ人間だろ)。
そんな単純な罪ではなく、
自分の心の弱さと傲慢さが虎の姿となったという
中島敦のアレンジはすごいと思う。

あと、最後に収録されている、
自身の叔父を描いた私小説のような
『斗南先生』もおもしろかった。
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『夜と霧』星5つ!!

2021-10-13 18:12:11 | 日記
『夜と霧』
ヴィクトール・E・フランクル
池田香代子

原文のドイツ語タイトル
『ある心理学者、強制収容所を体験する』
が内容をよく表しています。
私は邦訳タイトルが好きだけど。

ぐうの音も出ない「ザ☆名著」。

結構有名な本なので、
今まで読んでなかったのが悔やまれます。
星5つというか、人類の必読書!!
読売新聞のアンケート
「読者の選ぶ21世紀に伝えるあの一冊」(2000)
では世界の名著部門の第3位!
なんで1位じゃないのよ!!
(と思ったら1位は『アンネの日記』だ。
 確かに、まずはそっちを読む方がいい。
 ただ、2位は『論語』だ。
 それよりは先にこっち読もうね!)

で、私が読んだのは“新訳”ではなく、“新版”です。

初版は終戦後間もなく(1947)出版されたのですが、
作者のフランクルその人が後に改訂(1977)したものの
日本語訳です。

初版の邦訳は霜山徳爾氏の訳で、1956年に日本刊行。

著者のフランクルはユダヤ人で精神分析学者で医者。
1942年に強制収容所に連行されて、
45年の終戦まで生きのびた人です。

心理学者としての視点から
被収容者の心理を冷静に描いているけれど、
やはり、事例として、自身や近しい人々のエピソードも
挙げられていて、胸が締め付けられる。

とはいえ著者は絶望しながら書いているわけではなくて、
人の精神性を信じている彼独自のスタンスを感じる。
強く優しい人だと思います。

いわゆる「強制収容所の実態」とか
歴史的俯瞰資料ではないので、
前知識の差で読んでもピンと来ない人もいるかもしれません。
でもね、みんな読んだ方がいいと思う。
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『透明な夜の香り』出会いは大事にしないとですね

2021-10-12 10:25:56 | 日記
『透明な夜の香り』千早茜

主人公の一香は、明らかに何らかのトラウマを抱えた
不自然に無気力な20代の女性。

そんな彼女の一人称で物語が語られるので、
物語を動かすのは、
謎の洋館に住むオーダーメイド調香師の小川朔と
その相方で探偵の新城になる。

生活費のために始めた不思議なバイト(洋館の家政婦)。
感情の起伏に乏しい主人公が、淡々と日々を紡いでいく。

各章では、調香にまつわるいくつかの事件が描かれます。
すこしずつ主人公の過去や本質が見えてくるし、
本人も向き合うようになる。
というお話し。
文章もきれいで、細部の展開も良くて、
読んでいる間の読書時間が、まるっと、いい感じ。

最初はただのゴロツキ感満載だった新城が
どんどんイイヤツに見えてくるのが不思議である。

ちょこちょこ挟まれるハーブの知識はおもしろい。
いちごのスープと焼きアスパラはおいしそう。
粕汁も好きだ。

実質主人公の小川朔は、天才的嗅覚を持っている故の
辛さを抱えていて、『香水』の主人公と似た特性ですね。
『香水』は犯罪者になっちゃいましたけど、
こちらの主人公がなんとか社会と折り合っていけているのは
新城やお爺ちゃんに出会えたからだと思う。
一香にも出会えて良かったね。

そして一香はバイト先の友人に感謝すべきだ。
友だちは大事だな。
と、中年になった私はしみじみ思う次第です。

第6回渡辺淳一賞受賞作。
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『もののはずみ』文章が良いと写真も良く見える笑

2021-10-11 17:55:34 | 日記
堀江敏幸『もののはずみ』。
「もの」にまつわる短いエッセイたち。

フランスの古物市で買ったものがメインで
見たことないメーカーのものや
ちょっと変わったデザインのものが多いですね。

そして、あまりお上手とは言えない(失礼)
作者による「もの」写真が、
なぜか、なぜだか、とても良い味わいである。
不思議ですね笑

作者の、
「しょっちゅうドアノブに服が引っかかる」
というエピソードはめちゃくちゃ激しく共感。
私は、ゆったりしているニットとか着ていると
かなりの確率でドアノブに引っかかって
びろんびろんになります。

今は存在しない鉛筆メーカーとか、
時計ブランドの話とか、
細々とした「もの」の話がおもしろかった。

本をざっと眺めるだけでも楽しいし、
海外プロダクトのエピソードもおもしろい一冊。
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