苦しみを、いつかは超えて

2007年09月24日 | Weblog



▼足の怪我で、すべての予定をキャンセルしたおかげで、安倍さんの入院先での会見を録画ではなく生放送でみることができた。

 いつもなら、こうした場合、すこし周辺取材をしてから、どのような形であれ考えを述べるけれども、きょうは第一印象をすぐに書いておくことにします。


▼入院先で、しかも今のタイミングで記者会見するなら、こういう会見になるであろうと多くのひとが考えていたとおりの、予定調和のような会見内容という側面があった。
 それは、万(ばん)、やむを得ないと思う。

 安倍さんの国民に詫びるこころ、内閣と国会に詫びる気持ち、それから、おそらくは拉致被害者とその家族への責任感もあって、一議員としては課題に取り組みつづける決心を述べたことは、伝わるひとには伝わったと、思いたい。


▼そのうえで、いくつかを記したい。

▽まず辞任の「最大の理由」を健康問題とし、辞意を表明した会見で、ただの一言も健康に触れなかったことについては「現職の総理が、健康問題に触れるべきではないと思った」と述べ、しかし触れるべきであったと陳謝した。

 現職の総理で病気になったひとは、もちろん何人もいる。
 いずれもまず、入院などの加療を受けて、その経過を受けて退陣するか、あるいは病院で死去した。
 入院も、国民にわかる加療もなく、一切、健康問題に触れずに、別の問題を挙げて辞任会見をおこない、そののちに入院した総理はいない。
 さらに、その入院中に「実は、健康問題が辞任の最大の理由だった」と言葉を翻した総理大臣も初めてだ。

 安倍さんが、それだけ心身がおかしくなっていたんだ、という見方をするひともいるだろう。

 だが実際の安倍さんは、入院先の慶応病院の病室で、政治家ではない身近なひとには、「戦後レジュームからの転換は、1対99の戦いだった」という心境を、憔悴したようすで話した事実がある。

 安倍さんは、最後に、いわば、いちばん当たり障りのない「健康問題」を理由に挙げることによって、みずからが直面した「戦後レジュームからの転換、すなわち日本がフェアな国家主権を回復することを進めようとして、直面することになった孤立と孤独」を歴史の裏へ封印してしまった。

 わたしは、それを残念には、思う。
 ただ、安倍さんが保身のために、そうしたとは決して思わない。

 以下は、推測である。

 ひとつには、安倍さんは、拉致被害者とその家族のために代議士であることを続ける以上は、辞任をめぐる謎や混乱については「健康問題でした」とすることによって収束させ、みずからが引き起こした混乱劇に終止符を打つしかないと考えたのではないか。

 もうひとつには、安倍さんは、麻生さんがクーデターを起こそうとしていたとの嘘をはじめ、おなじ自民党内に疑心暗鬼の状況を生み出したことについて、安倍さんらしく本心から申し訳なく思い、誰もが、すくなくとも表面上は納得したように振る舞うしかない「健康問題」ですべてを説明しようとも、考えたのではないか。

 以上は、前述したように、ただの推測であるが、これがいくらかは当たっているとしても、「それこそが安倍の弱さだ」と非難するひともいるだろう。

 その非難に当たっている面があってもなお、わたしは、安倍さんが仮にこう考えたとするなら、理解はする。
 たとえばアメリカやヨーロッパの政治と社会でも、高官たちが「家族と一緒にいたいから」といった、その社会では誰もが反論できない理由を掲げて、ほんとうの辞任理由は明かさずに去っていくことがあるし、それは例外的には大統領や首相クラスでも起きている。
 安倍さんだけが例外だとみることは、やや違う。

 わたしは、きのうの出雲の講演で申したように、安倍さんが、戦後の首相として初めて、この祖国のフェアな主権回復に取り組み、その壁の厚さに孤立して異様な形で辞任したからこそ、壁の厚さと巨大さをよく知り、これからに活かすようでありたいと、今あらためて思う。


▽次に、麻生さん、与謝野さんとの関係について、安倍さんが「クーデター説は、そのような事実は全くない」と述べ、安倍さんが、麻生に騙されたという言葉を発したという説についても、しっかり否定したことは、当然であり、ありのままにおっしゃったと思う。
 いずれも事実でなく、卑劣な情報の操作と偽造が、政治家(複数)によって行われたことは、わたしもこれまで指摘してきたとおりだ。

 そのうえで、安倍さんが、麻生さんについて、辞意表明後の混乱の「収束」について頑張ってくれたという認識を二度にわたって強調し、一方で、辞意を表明する前のことについては「麻生幹事長もよく支えてくれました」と一度だけ、淡々と述べたことに、わたしはいささか着目せざるを得なかった。

 解釈の違いはあり得る。
 安倍さんの病院会見は、これからも代議士として政治生活を続けるひとのそれらしく、きわめて政治的な言葉、あるいは日本的な配慮たっぷりの言葉遣いであったから、さまざまな解釈はあり得る。
 簡単に言うと、あまり露骨には言わないけど、分かるひとは分かってくださいね、という会見でもあった。
「予定調和」に加えて、その一面もあった。

 安倍さんの現在の麻生さんへの感謝、それは間違いなく本心だろう。
 ただ、それは、辞意表明後の混乱の収束や、『北朝鮮への強硬路線の継続』という日本の選択がしっかりとあることを、総裁選の健闘を通じて、国民に示してくれたことへの感謝だということも、安倍さんのこの入院中会見で、あくまでも周辺取材のない第一印象としては、わたしに伝わってきた。

 辞意表明に至るまでの道のりでは、安倍さんの、恐ろしい孤独と孤立があったことを、安倍さんは、それが無意識なのか意識してなのかは、すくなくとも現時点では分からないが示唆していることを感じた。

 いずれも、先の長い書き込みで、わたしのささやかな分析として書いたことと、わたしは矛盾をみることがなかった。
 さきほど記したように、解釈の違いはあり得るから、別の見方も、もちろんあるだろう。それは、この部分以外のことについても、同じだ。


▽テロ特措法の問題について、安倍さんは冒頭発言で「特措法の延長によって」海上自衛隊の給油活動を継続したかったことを明言し、それをブッシュ大統領などに約束したことを示唆した。

 新法については、一言も触れなかった。

 このことも、先の長い書き込みの分析と、一致しているように、わたしは考えた。
 今夕の安倍さんのような短い会見で、しかも、政治的配慮に満ちて丸められた言葉のなかから、おのれの分析にとって都合のよい言葉だけを拾うことは絶対にやってはいけない。
 安倍さんの今夕の会見のすべての言葉を通じて、すくなくとも矛盾はないとだけ、わたしは考えた。


▽もうひとつ、小沢さんとの党首会談が、テロ特措法の延長のために(新法のためにではなく)、やる会談であり、その会談ではテロ特措法延長の代わりに、首を差し出す(首相を辞める)ことを用意していたことを、ここは安倍さんはちょっとびっくりするぐらい、強く示唆した。

 これは、先の長い書き込みに記したように、麻生執行部が、そんな小沢さんと談合会談などやればテロ特措法延長の代わりに首相の首を差し出すことになってしまうと懸念して、そのセットに不熱心だったことについて、その懸念が正しかったことを物語る。
 懸念が正しかったからこそ、その当時の安倍さんと麻生さんや与謝野さんとに、食い違いとコミュニケーション・ギャップが生まれてしまったのだった。


▼さて、安倍さんはこうして、一応の説明も完成させ、体調が戻れば、いつかは政治に戻ってくる。

 会見を、おそらくは食い入るようにご覧になっていたであろう、拉致被害者の家族のかたがたは、安倍さんの別人のように生気を失った姿に衝撃を受けつつ、これからも頑張るというニュアンスに、いくらかの安堵もされただろうと、そう祈る。

 拉致被害者の、有本恵子ちゃんのお父さんは、このごろ安倍さんがテレビに出るたび、涙しておられた。
 きょうは、どんなであっただろうかと、胸をえぐられる。
 恵子ちゃんは、わたしと同じ幼稚園の出身だ。
 それもあって、わたしなりに懸命に関わっているが、この有本恵子ちゃんの事件を初めて、まともに取り上げてくれたのが、安倍晋太郎さんの秘書だった当時の安倍晋三さんだった。

 安倍晋三さんがいなかったならば、恵子は闇の彼方に閉じこめられたままだったと、ご両親が思うのはまったくその通りであり、その安倍さんが総理になったときの期待はどれほどであったか。

 安倍さんが、そのことを忘れていることは、まったくないだろう。
 だからこそ、きょうの苦しい会見もやったし、きょうの会見を、クーデターの明快な否定も含めて完遂したのであり、それは、安倍さんと麻生さんらが再び、連帯できるよう信頼関係が回復したことを物語っていると思う。

 そこに、麻生さんの総裁選での驚くべき健闘、なんと200票近くを集めるという結果をあわせて思えば、まだまだ決して絶望ではない。

 生放送で眼にした安倍さんの憔悴した表情にも、胸に浮かぶ有本さんご夫妻のようすにも、深く苦しみながらも、わたしは、そう思っている。




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10 Comments

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政治的配慮を感じました。 (るるー)
2007-09-24 22:03:04
1日お休みになられたようで、アクシデントではありましたが、不幸中の幸いでした。お休みが出来たのは、良かったです。

過日、安倍さんの辞任の会見では、その辞任の理由は『テロ特措法が延長できない事態になったことへの責任』だったように記憶していますが、本日の謝罪会見では『恒常的な健康の不安と体調不良の極み』と語られていましたね。わたしの記憶が間違っていなければ、この辞任理由の違いが即ち、安倍首相の政治的配慮だったのだろうと思いました。

安倍さん、応援してました、残念です。
青山さん、応援しています、頑張ります^^
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Unknown (なみ)
2007-09-24 22:21:26
青山さん
あなたは、卑怯だ。
あなたは、さも事実かのようにクーデター説を流したでしょ。
そのことによって、国民世論は福田に流れ、麻生氏は
総理になることができなかった。
福田が総理になり、外国人参政権、人権擁護法案、は通過し、無分別な移民の受け入れ、北朝鮮への制裁の中止が現実になる。
これからの日本を破壊したのはあなたたちメディアの人間だ。
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会見 (TT)
2007-09-24 22:24:51
青山さん、こんばんは。
今日の会見をテレビで見ました。
病院という場所は不思議なところかもしれません。
患者としての役割を果たしているうちに、それがあたかも全てであるかのように
みえてしまう。辞任会見をした時よりもずっと憔悴されたように感じて、驚きました。
安倍さんがとても勇気のある人だと思ったのは、あんなに満身創痍にみえる
ご様子でありながらも、国政への意欲が伝わってきたからです。
潔い人だと思いました。
安倍さんには、まだまだこれから先もずっと、日本のために働いていただきたいです。
そして、志を同じくする人と大同で団結して、あらためて戦後レジュームからの転換
を目指して底力を発揮してほしい。そういう方向に物事が進んでいけるように、国民
の一人として考えています。
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家族の愛 (兵庫のおばさん)
2007-09-24 22:27:09
いつも拉致被害者のご家族を拝見するたびに皆さんとても知的で冷静で人間的に素晴らしい方ばかりだと思います。その方々が頼りにしていた安倍さんの辞任・・・当時冷たい言動で傷つけた福田さんが総理になって複雑なきもちでらっしゃるでしょう。しかし国民は見ていますよ 福田さん!! 
青山さん本当にあまり無理なさらないで下さいね。
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復活を期待して (twilight)
2007-09-24 22:28:16
「今はゆっくりお休みください」と、安倍さんにも青山さんにもお伝えしたいと思います。

おふたりとも、様々な思惑が渦巻く中で、進まんとする道を行くことの過酷さを、身をもって示してくださっているのだと思います。

心からの感謝を込め、おふたりの癒しと回復をお祈りしています。
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Unknown (こーちゃん)
2007-09-24 22:38:14
私は青山さんほど優しくありませんから、今日の会見には空しさしか感じませんでした。

自分で選んだ閣僚と、仮に行き違いがあったにせよ、ブッシュ氏と海上給油継続の約束が在ったにせよ、安倍さんの突然の辞任は、(結果的に)あらゆる約束を反故にした遺憾なものであると思います。

安倍さんにとって、自己の都合、その説明と異なる感慨を持つ多くの人々が存在し、言い訳を決して許されない立場の多くの人々も存在します。

やるせない気持ちですが、今後は麻生太郎氏と中川昭一氏に、わが国の主権回復への希望を託しつつ、最悪の結果となってしまった福田政権の今後を観察したいと考えています。

今後、お体に注意される事を希望します。
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政治的なご配慮を (桃之介)
2007-09-25 09:29:57
KABU先生

青山さんの「麻生路線への怒り」が事実であっても、それは「安倍首相退陣の理由」としての因果関係はないのではないか

まして「麻生路線への怒り」だけを「安倍首相退陣の理由」としてTVで紹介したのは政治的に拙いだけでなく論理的にもおかしいだろう

という先生のご指摘は正しいと思います。

といいますか[KABU]を少しでも知っている者ならネット界保守系最強論客のお一人のKABU先生と議論しようなどという無謀なことというか、しんどいことをやろうと思う者は少ないでしょうw

けれども、青山さんもKABU先生も同じく尊敬するものとしてコメントをさせていただきたいのですが、

たとえ、誤りといいますか誤解を招きかねない拙いことが青山さんにあったとしても、それが青山さんの本意であろうはずもなかでしょうから、この辺りで兵を引かれるのが保守改革派総体としてはよろしいのではないでしょうか。

十分、批判の論旨は明らかになった。これ以上、保守改革派が保守改革派を攻撃してもなんら得るところはないと思われませんか。古くからKABUファンとして政治的な配慮を期待しとります。
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おはようございます (kazuhito)
2007-09-25 10:07:35
青山さん、いつもありがとうございます。
そして、脚のお怪我お大事になさってください。
心からご回復お祈りします。

 ところで、福田さんあっさり決まりましたね。
 党三役の人事をネットのニュースで見たとき
愕然としました。
 こういうことがまかり通るんですね。気味悪い
ったらないという感じです。
 自民党って近い将来瓦解する気がします。
 政治家だけでなく、ウォッチする立場、対の権力メディアも、どこの党を、だれを応援するのか、10年単位ぐらいのプラン、そういうの出してから看板掲げてほしいです。
 希望を見出さないといけないですね。
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納得いかない。 (しげ)
2007-09-26 09:05:37
卑劣な情報の操作と偽造が、政治家(複数)によって行われたことは、わたしもこれまで指摘してきたとおりだ。

これおかしいですよね?
貴方は9月12日のス-パ-ニュ-スアンカ-に
おいて、鼻息荒く私だけは知っていた!

安倍さんは、麻生さんに騙されたんだ!
と、仰られたじゃないですか。

卑劣な情報操作をしたのは貴方自身じゃありませんか。
ソ-スはお得意の安倍さんの側近か、
政府高官かのどちらかは忘れましたが
得意気に安倍さんは麻生さんに騙されたんだ!

と言う故の事を言っていたじゃありませんか。

もう貴方の事は信用しません。
メディアに出てそれを生業としている人間が
政府高官やら誰々の側近の話によると~。
と言うと、責任逃れが出来るとでもお思い
ですか?
恥を知って下さい。

返信する
謝罪と訂正。 (しげ)
2007-09-26 10:06:19
度々の投稿申し訳ありません。
上の投稿での、

安倍さんは、麻生さんに騙されたんだ!
と、仰られたじゃないですか。

についてですが、ソ-スが見つかりませんでしたので
安倍さんは、麻生さんに騙されたんだ!

と、誤解を受ける様な内容の発言をされましたよね。

に訂正してお詫び申し上げます。
申し訳ありませんでした。

が、しかし貴方のアンカ-での発言を文字に
起こしているブログ主さんでさえも、

この件について勘違いするのに一役買って
しまって申し訳ない。
と言う内容で謝っておられます。

私はこの方が謝る必要は微塵も感じられませんが
それだけ今回のデマについて真剣に
考えておられるのだろうと思います。

それから
2007年9月19日 関西テレビ「スーパーニュースアンカー」から
情熱と涙のジャーナリスト 青山繁晴のニュースDEズバリ
http://www.nicovideo.jp/watch/sm1094994
の2分20秒辺りから是非ご覧になってみて下さい。
これが一週間前の12日に同じくアンカ-での
貴方の発言を聞いた方々の正直な感想でしょう。
中には悪意に満ちたコメントも有ると思います。
しかし、今一度視聴者の反応をご覧になって
頂ける事を強く望みます。
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