苦しい夜明けまえに、わけもなく落ち着き払って、思う。
ぼくの最初と最後は、物書きだと。
見えないものを書くのが、物書きだ。
ぼくは、物語を紡ぐより、眼の前の現実とぼくなりに戦ってきた。
そしてやがて、現実を物語に叩き込む。
あらかた書いたら、水辺に椅子を置いて、しかし、滅多に座らない。
水に逆らって泳ぎ、水に従って泳ぎ、はるか上流の山の水源まで泳ぎ、遠く下流の海の潮まで味わい、たまに、水辺の椅子に戻ってくる。
あの南のニュー・オーリンズにも、場違いな冬は来る。
その肌寒いミシシッピ河畔に濡れて立つように、今のぼくはある。
そしてぼくは、夏の匂う日本の川辺に帰ってくる。
あっさりと書く。らくに書く。夏の少年が、小川に魚とりの丸い網を入れるように、書く。