「遠見の角」に好手あり 羽生善治vs佐藤康光 2012年 第71期A級順位戦

2022年04月15日 | 将棋・好手 妙手

 角の妙手というのは、カッコイイものである。

 射程距離が長い駒なので、「遠見の角」や「攻防の角」といった使い方ができると、実に気持ちがいいものなのだ。

 


 2018年竜王戦で羽生善治竜王が広瀬章人八段に放った「遠見の角」。
 飛車の利きをさえぎるし、「天野宗歩」のイメージでつい▲18から打ってしまいそうだが、相手の応対によっては▲16角とシフトチェンジできるところが、羽生の発想のやわらかさ。

 

 とはいっても、われわれのような素人には、馬ならまだしも生角をうまく活用するなど、なかなかうまくはいかないもので、やはりこういうのは、強い人の将棋から学びたいもの。

 前回は、中原誠名人が見せた、名人戦史上に残るかというウッカリを紹介したが(→こちら)、今回は羽生善治九段の見せた角の名手を見ていただきたい。

 


 2012年の第71期A級順位戦

 羽生善治三冠佐藤康光王将の一戦。

 佐藤のゴキゲン中飛車に、羽生が星野良生四段発案の超速▲46銀で対抗し、序盤から斬り合う激しい変化に突入。

 飛角金銀桂香のすべてが乱舞する大激戦になり、むかえた最終盤。

 先手玉も相当せまられているが、まだ後手に金銀がないため、いきなりの詰みはない。

 一方の後手玉もまだ詰めろになってないが、次に▲63歩とたたかれたりすると、もう手番が回ってこない。

 なので、この一瞬に、なんとか先手玉を受けなしに追いこみたいのだが、自然な△67と、は▲79香との交換が得になるかどうかは微妙

 超難解な戦いだが、ここからの数手は力が入っている。

 

 

 

 △77角、▲98玉、△88角打

 すごい形で、いかなカナ駒がないとはいえ「玉の腹から銀を打て」ならぬ「腹角」の二枚重ねは、なかなか見ないのではあるまいか。

 それに対する羽生の受けも、また根性入っている。

 

 

 

 ▲89飛

 先手の自陣飛車も、この局面になれば打つしかないが、それでも「こんにゃろ!」とでも言いたげな気合を感じる一手だ。

 接近戦で、大駒が頭突きをかまし合う珍型だが、熱戦とはこういうのを言うのであろう。

 足が止まったらお終いの後手は、なんとか攻めを継続したいが、△68歩▲78金で、金を守りに使われてしまう。

 後手もヌルい手だと、なにかのときに先手から▲57歩と取るのが、攻め駒を除去しながら飛車横利きを通す、ピッタリの受けになるかもしれず、そこも気をつけないといけないのだ。

 そこで佐藤は△68と、とすりこむが、アッサリ▲同金と取って、△同角成に▲88飛

 △78金と打つのも、部分的にはきびしいが▲同飛△同馬

 

 次に△88飛の1手詰め。

 一見、先手玉に受けがむずかしそうだが、ここで作ったようにきれいな手がある。

 

 

 

 ▲44角と打つのが、まさに攻防の名角。

 △88飛の詰みを消しながら、▲62角成、△同銀、▲61銀からの詰みを見た、見事な「詰めろのがれの詰めろ」。

 △88飛、▲同角、△77桂成という緊急避難のような手も、▲同角、△同馬が一手スキでないので▲63歩で負け。

 ▲44角に佐藤も、△82玉と執念を見せるが、▲84香、△72金、▲63金と羽生が押しつぶした(棋譜はこちら)。

 この勝利で羽生は、当時なんと順位戦20連勝(おいおい……)。

 それもAクラスでのそれだから、ちょっと信じられない数字である。

 その後、次の高橋道雄九段戦にも勝利して、連勝を21まで伸ばし、この年の名人戦挑戦権も獲得したのであった。

 

 (「中原誠名人」誕生編に続く→こちら

 

 

 

 


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