軽度のキチガイはこれを観ろ! 奥崎謙三と『ゆきゆきて、神軍』 その3

2013年09月12日 | 映画
 前回(→こちら)の続き。
 
 「熱い映画を彼女と観たい」
 
 後輩の想いに応えるべく、『ゆきゆきて、神軍』を推薦した私。
 
 戦時中、ニューギニアにおける兵士処刑事件の真相を探るため、暴力でもって関係者から話を引き出していく奥崎謙三
 
 ここで、さらなる闇と接触していくこととなるのが、第36連隊軍医との会談。
 
 いつものごとく、
 
 
 「もうあの時のことは、むしかえさないでくれ……」
 
 
 口をつぐむ軍医をむりやり引っ張り出し、話を聞くことに成功。
 
 ここで奥崎さんがズバリ聞くのが、
 
 
 「あのときニューギニアで、飢えた日本兵が人肉を食べていたというのは本当ですか」
 
 
 ここで、観ているこちらはギョッとなる。
 
 じ、じ、人肉? 兵士処刑事件から、いきなりそんなことになるのか。
 
 そこで軍医は、
 
 
 「はい、その通りです」
 
 
 あっさり認めちゃった。
 
 いやいや、そんな人類最大のタブーである人肉食いを、そんなさわやかにイエスと言っちゃっていいのか。
 
 が、奥崎さんもそのことはわかっていたのか、たいしてひっかかりもせず、
 
 
 「当時は白人の肉を《白豚》、原住民の肉を《黒豚》といって食べてましたよね」
 
 
 「はい」と答える軍医に(おいおい……)、
 
 
 「で、仲間の日本兵は食ったんですか?」。
 
 
 怒濤の急所責めだ。
 
 そ、そんなこと聞いてええのんかい……。
 
 ここでの奥崎さんと、遺族の方の見解では、
 
 
 「食料のなくなった日本軍は、手に入る人肉を食べていた。だがそれにも限りがある」
 
 「軍内で身分の低い者から順に殺して、それで飢えをしのいでいたのではないか。表向きは脱走による処刑となっているが、食料として殺されたのでは……」
 
 
 もう、上映開始時の笑顔は、ひきつっております。これには軍医も
 
 
 「そんなことはない。我々は仲間は食べない」
 
 
 奥崎さんの
 
 
 「あなたは2人を処刑する引き金を引いたのか?」
 
 
 との問いにも、「そんなことはしてない」。
 
 だが、おそらくその答えを、もはや、だれもが信じてはいない。
 
 ここへきて、ひとつ気づくことになる。
 
 奥崎さんがおとずれる関係者に、「旧姓○○」と名前を変えている人が多いことに。
 
 最初は気にもかけなかったが、こういう事情があったのかと、ようやっと理解できた。
 
 だから皆、涙を流して「聞かないでくれ」と頼み、名前も変え過去の亡霊を振り切って生きようとしているのだ。
 
 もうみな、かわいい孫もいるような歳なのだ、今さら
 
 「人を殺して肉を食った
 
 なんて、どうして家族の前で白状しなければならないのか。
 
 その墓を、奥崎さんは暴こうとしている。
 
 
 「私なりの弔いなのです」
 
 
 地獄の真相を知るために。
 
 奥崎さんの手はゆるむことはない。若竹七海さんの小説ではないが、「わたしの調査に手加減はない」だ。
 
 その後も、命令を発したはずの部隊長(やはり名前を変えている)を追求。
 
 遺族の同行がなくなることとなれば、なんと自分のに遺族のフリをしてもらうという偽装工作(!)まで駆使して前進。
 
 もう、だれにも止められません。  
 
 最後に訪問した元軍曹は、重い病に伏せっていたのだが、
 
 
 「病気になったのは天罰だ!」
 
 
 とシメあげ、ほとほとウンザリしている相手に「話してくれ」とせまる。
 
 こっちはもう、すっかり奥崎さんに当てられるというか、ここまで来たらどんなものでも真相が知りたいので、のらくらと追及をかわそうとする元軍人たちに「とっとと吐きなよ」と言いたい気持ちになっている。
 
 それを酌んだかのように、どうしても口を割らないとなったら、ここはリーサル・ウェポン発動で、奥崎さんはいきなり元軍曹につかみかかる
 
 どうも、元軍曹氏がうっかり「靖国神社」という言葉を発したのが、まずかったらしい。
 
 それに反応した奥崎さんは、まともに歩けない病人相手に蹴る! 蹴る! 蹴る! ストンピンングの嵐をお見舞い。
 
 これには同行していたアナーキスト(!)の大島英三郎氏からも制止される始末。もうムチャクチャです。
 
 が、当の奥崎さんは、抵抗してもがく元軍曹に、
 
 
 「わたし相手に、そこまでやれるとはたいしたものだ」
 
 
 ケロリとしている。もう、なんともつっこみようもない勢い。
 
 これには元軍曹氏も、ホトホトまいったようで、
 
 
 「日本兵も食べたよ。わたしは幸いカンがよくてね。夜目がきいたり、食料のありそうなところがわかったりしたから、使えるということで殺されずにすんだけど、周りから『アイツを食べたい、早く殺そう』みたいな声が聞こえるんだな」
 
  
 観念したように話し出す。
 
 おいおいちょっと待て、そんなとんでもない話を淡々と……。
 
 ここで、観ている方も正気に戻る。これまでは奥崎さんの迫力に引きつけられていたが、ここへきてようやっと、
 
 「こら、しゃべられへんのも当然や……」。
 
 情状を斟酌することになる。
 
 奥崎さんもマジなら、口をつぐむ方も、その是非はともかくとして、死ぬほど悩んだであろう。
 
 それとも、神妙なフリをして「部下食ったけど、罪まぬがれてラッキー!」と心では感じていたのだろうか。
 
 
 「あんたには、わからないよ!」
 
 
 という魂の叫びが、ここでようやく心を乱れ打つ。
 
 なんちゅう話や……と呆然としているところで、ショックとストンピングのせいで、元軍曹氏は病院に運ばれる。
 
 それを見送ったあとの、奥崎さんのセリフがイカしている。
 
 
 「暴力で解決するなら、それはいい暴力。これからも、私の判断と責任において、大いに暴力を活用していきたい」
 
 
 人を一人病院送りにして、このセリフ。男前すぎます。
 
 「いい暴力」って、いにしえの名言「中国の核はよい核です」みたいだなあ。
 
 それを決めるのは、奥崎謙三本人。まさに「オレがルールブックだ」。シブすぎる生き様である。
 
 こうして映画は最後、奥崎さんが、殺すつもりで乗りこんだ元隊長の家で、代わりにその息子を銃で撃って逮捕されるところで終わる(どんなエンディングや)。
 
 この『ゆきゆきて、神軍』。その衝撃的な内容もさることながら、全編にただよう奥崎謙三の強烈なフェロモンというか「人間力」に圧倒される。
 
 どう見てもタダの気ちがいなのだが(悪口ではない、本人が自ら「気ちがい」と認めているのだ。ただし、政治家など「重度の気ちがい」ではなく「軽度の気ちがい」らしいですが)、それにもまして不思議な魅力があるのが、奥崎謙三という男なのであろう。
 
 いやはや、こんな濃密な映画は、なかなか観られません。そら、あのマイケル・ムーア絶賛するわと。
 
 というわけでオオヒガシ君、どうやこの映画は、とにかく熱いやろ!
 
 先輩が会心の笑みを浮かべると、ビデオ観賞後、彼は静かに
 
 
 「ガチッスね……」
 
 
 とだけつぶやいて、その日はそれ以上語ることなく家に帰った。
 
 後日、メールで「で、今日も彼女と熱い映画を観たかい?」とたずねると、
 
 「はい、今彼女の家で一緒に『20世紀少年』観てます」。
 
 待てい!
 
 おどれは、あんなこといいながら、なにをそんなヌルイ映画を観ておるのか! 『ゆきゆきて、神軍』からオ、マエはなにを学んだんや!
 
 そこは人生の先輩として大いにしかると、
 
 「なんかあれ観て、先輩がモテへん理由がわかりました。ボクは熱くなくても、別にええですわ……」
 
 どうも、せっかく推薦したのに、彼自身はドン引きしてしまったらしい。
 
 なにかこう、全体的に「度が過ぎた」ようである。
 
 まあ彼の好みはともかく、『ゆきゆきて、神軍』がモテ映画ではないことはたしかであろう。
 
 
 
 
 おまけ 『ゆきゆきて、神軍』の映像は→こちら
 
  

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