選挙でこんな応援演説をやってはいけません

2014年03月31日 | 若気の至り
 「オレ、生徒会長に立候補しよう思うねん」。

 高校2年生ころ、昼休みにそんなことを言いだしたのは、友人イケシマ君であった。

 今も昔も政治にはとんと興味のない私だが、これには

 「へー、ええんとちゃう。オレ、キミに投票するで」。

 そう答えたものだ。

 イケシマ君は部活などで、空手や柔道をたしなむナイスガイ。

 人望も厚く、性格も温厚。勉強はやや苦手だが、その分謙虚で会長にはもってこいの人材であった。

 そんなわけだから、我々は彼が当選するようバックアップを申し出たが、イケシマ君は「そんなんええよ」と遠慮するのである。

 おいおい水くさいやないかと思ったが、聞いてみるとなーんやという話であった。

 この選挙、立候補者がイケシマ君一人だけだったのである。

 なるほど、それなら応援などいらないはずだ。形だけの「信任・不信任」投票をやって、晴れてイケシマ君が会長の座に着くわけである。

 その「無血入城」をよろこんだ我々は、前祝いで万歳三唱を行った。これでこの学校は我々の制圧下に置かれたも同然である。

 なんといっても、これで生徒会室を自由に使える権利を手にすれば、当時流行っていた『ダンジョンズ&ドラゴンズ』をプレーする場所に困らなくなる。

 これがなんの労力もともなわずに手に入るなど、なるほど選挙というのはおいしい商売であるなあ。

 「利権」この一言で、人はかくも簡単に俗物になれるのである。そりゃ政治家が、みな下世話な顔になるのもむべなるかな。

 ただ、そんな大勝利の報にも、ひとつだけ問題があった。

 結果はすでに決まっていた選挙だが、一応は「立候補者のあいさつ」というのが放課後にグラウンドで行われるそう。

 そこで顔見せをして、すみやかに投票に移ることになるわけだが、そこでは、候補者が自己紹介をしたあとに、その友人が「応援演説」をしなければならないらしい。

 まあこれは義務ではなく、ましてや今回は対立候補がいないのだから、あえてやらなくてもいいそうで、全校生徒の前で演説をするなどといったSMプレイのようなことなど誰もしたいはずもなく、

 「ま、今回はなしでええか」

 そうイケシマ君も言ってくれたのだが、ここですっくと立ち上がった男がいた。

 それはイケシマ君の友である、キタノ君とタテツ君という男子であった。彼らは力強くこう言い放ったのだ。

 「応援演説なしなんて、いくら勝利が決定的でも格好がつかんやろ。オレらがやったるがな!」

 熱い男であるキタノ君はそう宣言した。

 男の友情だ。すばらしい。思わず新聞の投稿欄にでも投書したくなるようないい話ではないか。

 だがしかしである。このキタノ君の友情パワーが我が大阪府立S高校史上、前代未聞の大事件に発展することになろうとは、まだ誰も予想しえなかった。

 嫌な予感はあったのである。というのも、演説に際して二人はこんなアイデアを出してきたのだから。

 「オレらでな、爆笑の漫才をやろう思うねん」。

 

 次回(→こちら)に続く。



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