「西の将棋王子」見参! 山崎隆之vs羽生善治 2009年 第57期王座戦 第1局

2024年06月11日 | 将棋・シリーズもの 中編 長編

 前回の続き。
 
 
 「新世代到来」
 
 「打倒羽生世代
 
 
 との期待を担いながらデビュー後、なかなかタイトル戦登場がなかった山崎隆之七段
 
 その殻を破ったのが、2009年の第57期王座戦

 挑戦者決定戦で強敵中川大輔七段に勝ち、ついに檜舞台で戦うことに。
 
 相手は王座戦といえばこの人という、羽生善治王座(名人・棋聖・王将)。

 戦前の予想は、やはり羽生有利
 
 ただでさえ名人をふくむ四冠を保持してるだけでなく、このころの羽生は王座戦を17連覇(!)しており、しかも直近4期では連続のストレート勝ち。
 
 その相手も木村一基久保利明佐藤康光×2とヘビー級ぞろい。
 
 対戦成績でも、ここまで山崎の2勝8敗と、どこにもスキは見いだせないのだった。
 
 絶対王者に対して、若さの勢い(といってもすでに28歳だが)がどこまで通じるかだが、このシリーズはいろんな意味で、両者の持ち味が出た戦いとなった。
 
 注目の開幕局は山崎先手
 
 となれば当然、戦型は相掛かりだ。

 

 

 

 

 山崎のトレードマークともいえる▲36銀型を目指して、この局面。

 まだ序盤の駒組の段階だが、すでに山崎の異能感覚が発揮されている。
 
 をくり出していく形に、羽生は△85飛と高飛車にかまえる工夫を見せる。
 
 飛車の横利きを生かして、▲36銀にどこかで△35歩とする手など見せながら、先手の駒組を牽制しようというわけだ。
 
 それに対して、山崎は▲68銀角道を開けない工夫を披露。
 
 この形だと、▲76歩には△88角成▲同金しかなく陣形がゆがんでしまう。
 
 つまりは「もう、角道はしばらく開けません」という宣言みたいなもので、▲76歩なら△86歩から、横歩をねらわれるのを警戒したか。
 
 の相掛かりだと、横歩を取られないよう、角道は閉じたままにするというのは普通にあるが、当時は山崎くらいしか指す気が起きない形だったろう。
 
 ここからもふるっていて、▲68銀△95歩高飛車を生かしてから仕掛けると、▲同歩△96歩に、▲38銀(!)と引く。
 
 
 


 
 

 せっかく出たを引いて大きな手損だが、はてどういう意味が?
 
 △95飛と端を制圧したところで、▲26飛(!)。
 
 
 
 


 これまた「うーむ」という手順。
 
 2手かけて上がったアッサリ引くだけでなく、最初に引き飛車にしたのを放棄して、▲26飛浮き飛車で受ける。
 
 この間、後手にを攻められ、穴も開いてしまっているが、それでも指せるという山崎の構想が、とにかくおもしろいではないか。
 
 その後も山崎は、相掛かり独特のコクのある押し引きから、今度は1筋から端攻めを喰らっても、ゆがんだ形で受けとめる。
 


 
 
 
 


 この▲18銀なんかも、見るからに悪い形に見えるが、この人にかかればむしろ、「山崎ペース」に見えるから不思議なものだ。
 
 思い出すのは2004年の第35回新人王戦
 
 佐藤紳哉五段との決勝戦第3局で披露した、この形。
 
 
 
 
 
 △12銀とへこまされたのが、見ているだけで士気が下がりそうだが、山崎自身は

 


 「このゆがんでいるのが、自分らしい銀」


 

 と見て悲観してなかったというのだから、やはり感覚がバグ……凡百の人とは違うのだ。
 
 この将棋は中盤で山崎にミスが出て、そのまま押し出されてしまったが(ということは、ここまでは不利ではなかったということだ)、その個性は大いにアピールできた。

 そりゃもう、ファンが見たいのはこういう将棋なんだからねえ。

 ライムスター宇多丸師匠風に言えば、

 

 「俺たちが自慢されたい山崎隆之」


 
 魅せてくれますわ、ホンマ。
 
 開幕局を先手番で失うという苦しいスタートながら、こういう将棋を見せてくれるなら、山崎には全然可能性ありと私は見ていたのだが、果たして第2局以降はどうなるのか。
 
 
 (続く

 

 

コメント
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