「常にスレスレの線を行く」 升田幸三vs高島一岐代 1951年 第5期A級順位戦

2022年06月28日 | 将棋・好手 妙手

 「三桂あって詰まぬことなし」

 とは将棋の「使えない格言」として、よく出てくる例である。

 桂馬というのはトリッキーな動きをするため、いいところで使えばすこぶる強力な駒だが、反面利きが少ないためか、たくさん持ってても、そんなに使い道がなかったりもする。

 ましてや、王様を詰ますときなど、3枚もらえるなら金銀とかのほうが絶対に便利なわけで、

 

 

 「三桂あっても役に立たない」

 「三桂あって詰んだとこ見たことない」

 

 など散々な言われかたをしたりする。

 そこで今回は、あえて「三桂あって、こりゃありがたや」という将棋を紹介したい。

 しかも使い道は「受け」だというのだから恐れ入る。

 主人公は前回と同じく、長谷部浩平四段も大リスペクトする、あの大先生で……。

 

 1951年、第5期A級順位戦

 升田幸三八段高島一岐代八段の一戦。

 角換わり腰掛け銀から先手の升田が仕掛け、後手の高島が端から反撃していく。

 升田が優勢になるも、本人も認める悪いクセである「楽観」が出てしまい、気がつけばおかしなことになってくる。

 攻守が逆転してからは、「日本一の攻め」を売り物にする高島のパンチが炸裂し、さしもの升田も防戦一方。

 むかえたこの局面。

 

 

 

 高島が△76銀と打って、先手玉しばったところ。

 先手陣は金縛りにあっており、△47竜の詰めろがかかっている。

 一方、後手玉にまだ詰みはない。

 どう見ても先手負けだが、ここから升田は手を尽くして、あれやこれやと受ける。

 達人のしのぎを、とくとご覧あれ。

 

 

 

 

 

 ▲39桂と打つのが、妙手順の第一弾。

 △同竜と取るのは、詰めろがはずれるからそこで▲61飛や▲15桂と攻め合う。

 これは受けがないし、再度△37竜などとせまっても、あと2機「▲39桂」の犠打が残ってるから先手が勝つ。

 高島は△68銀不成と一手スキでせまるも、今度は▲69桂(!)。

 

 

 

 

 △58金と必死の貼りつきにも、またもや▲49桂(!)。

 

 

 

 

 これが▲57の地点を受けながら、△37の竜当たりにもなっている。

 これで足が止まった高島は、やむを得ず△57銀成、▲同桂左、△同金、▲同桂右、△52桂、▲86馬、△64歩と、むりくり詰めろをかけるも、さすがに駒を渡しすぎ。

 

 

 

 ▲31銀から、後手玉は寄り。以下、△同玉に▲71飛から升田勝ち。

 升田といえば

 

 「角換わり升田定跡」

 「升田式石田流

 「天来の妙手△35銀

 

 など攻撃的なイメージがあるが、

 

 「受け切って勝つ」

 

 ことを好んでいたのは本人の弁。

 

 「常にスレスレの線を行く」

 

 というヒゲの大先生の言葉通り、見事な読みきりであった。

 

 (升田のポカ編に続く→こちら

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コメント
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