『ねらわれた学園』の真の主役は薬師丸ひろ子ではなく……。

2016年01月02日 | 映画
 この正月は、映画『ねらわれた学園』を観た。
 
 眉村卓原作、監督は『転校生』『さびしんぼう』など尾道三部作で有名な大林宣彦、主演は薬師丸ひろ子
 
 『ねらわれた学園』という、このおどろおどろしいタイトルの作品を知ったのは、私の場合テレビドラマ
 
 子供のころ、夕方4時くらいに再放送をやっていた記憶があって、たしか観ていたんだけど、いまひとつ中身を覚えていなかった。
 
 そこで今回、ノスタルジーから鑑賞することとなったのだが、これが想像以上にぶっ飛んだ内容であり、あまりの脱力に腰が抜けてしまった。
 
 おもしろすぎるので、ここに紹介したい。
 
 舞台となるのは薬師丸の通う高校、第一学園。春の新学期をむかえ、気分も浮き立つ生徒たち。
 
 こんな出だしから、前半はごく普通の学園ドラマが続く。
 
 優等生の薬師丸に、ボーイフレンドで剣道部主将の君をはじめ、頭はやや軽いが気のいい仲間たち。
 
 今の言葉でいう「リア充」な生徒たちが、部活に勉学に課外活動にと、特に問題もなく楽しくすごしている。
 
 ただひとつ、自分の中にある不思議な能力に戸惑う、薬師丸の心をのぞいては。
 
 その平凡な日が狂いはじめるのが、ある転校生の登場から。
 
 ミステリアスな雰囲気を携えた彼女は、薬師丸を敵視し、生徒会長になるや過激な演説で生徒たちの心をつかむと、「自警団」なるものを結成。
 
 独裁政権の秘密警察を思わせる自警団は、青春を謳歌する「風紀の乱れた」生徒たちを次々と摘発
 
 元来自由な校風だったはずの第一学園は、あっというまに規則暴力で、がんじがらめになった刑務所のような場所と化すのだ。
 
 すっかりおとなしくなり、あたかも洗脳されたゾンビのような目で授業を受ける生徒たちを見下ろして、彼女は不適に笑う。
 
 
 「これで、この学園は支配できたわ」
 
 
 学園の急激な変化には、ある理由があった。
 
 それは転校生にそなわった不思議な能力であり、いかに反抗しようとしても、いうことを聞かざるを得なくなる。
 
 そしてそれは、薬師丸もまた持っているものと同じであり、彼女を苦しめていた恐ろしい力に他ならないのであった……。
 
 ストーリーだけ追うとこんな感じで、ここだけ拾えば、まあ正当派学園SFドラマという感じがする。
 
 いかにも昭和テイストで、なかなかおもしろそうではないか。
 
 ところが、この映画のキモはそんなところではない。
 
 前半は青春もの、中盤からは急激にシリアスになり緊張が高まる展開だが、一番の山場は、自らの大きな能力に悩む薬師丸の前にあらわれる、ある男だ。
 
 彼はいう。
 
 
 「私は宇宙からきた。君は我々の仲間なのだ。さあ、私と一緒にその力で地球を支配するのだ」
 
 
 男の恐ろしい提案に、戦慄する薬師丸。
 
 だめよ、そんなのいけない、あたしはこの地球を、この学園を愛しているのよ。
 
 あなたはだれ? どうしてそんなおそろしいことをいうの? せまりくる恐怖に立ち向かうかのよう、男を見すえる薬師丸。
 
 しかしてその正体はといえば、これが峰岸徹なのである。
 
 さわやか学園ドラマに峰岸徹。ちょっと違和感である。
 
 おかしいとまではいわないが、なんとなく雰囲気は合わないというか、少なくとも、「ルックルックこんにちは」のMCが岸部シローだったくらいには、変な感じである。
 
 まあ、それはいいとしよう。別に学園ドラマに峰岸が出ていても、悪いという法律はない。
 
 問題はその出で立ちである。薬師丸に「ともに世界を支配しよう」と持ちかけた峰岸の衣装というのが、いかつすぎるのだ。
 
 言葉で説明するより、現物を見たほうが早いであろう、これです。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 どうです、このインパクト
 
 自らの中にある巨大な力におびえる美少女、学園を支配しようとたくらむ謎の転校生。
 
 そして、そこに現れる黒幕が「ともに地球を支配しよう」とささやく。
 
 しかして、その実体は、マントをたなびかせてナハハハハハ! と高笑いする峰岸徹
 
 この中年オヤジが女子高生に「おっちゃんと、どないや」である。
 
 どう見ても、ただの変質者。といって悪ければ、好意的に見てドリフのカミナリ様コントの高木ブーである。
 
 ここで見ている方はスココーンとコケる。
 
 いやいや、これまでの薬師丸の苦悩ぶりとか、学園の変貌とか、超能力の正体とか、あれこれ引っ張ってきたのに、この一撃ですべてがご破算
 
 もうこれだけでお腹いっぱいです。学園の秩序とか地球の平和とか、もはやどうでもいい
 
 この映画のキモは、薬師丸にカミナリ様の衣装の峰岸が、
 
 
 「ワイと地球征服せえへんか?」
 
 
 阪急電車の最終あたりにいる、酔っぱらいオヤジのごとく声をかけるシーンである。それ以外全無
 
 とどめには、エンドロールを見るとこの映画における峰岸の役名というのが、
 
 「宇宙の魔王子
 
 ここの衝撃が強すぎて、ラストがどうなったのかまったく記憶がない。
 
 この映画のキャッチコピーには、薬師丸のアイドル時代の姿とか、名匠大林の逸品といったところが売りに出されていたが、私からすれば、世界の存亡をかけた「壮大なる出オチ
 
 正月早々、こんなステキな映画に出会えるとは、さすがは私。
 
 サッカーの本田選手か、ハンカチ王子並みに「持っている」といわざるをえず、まさに2016年も上々のロケットスタートといえよう。
 
 
 
 
コメント (2)
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