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HASTICニュースレター
第131号 2014年8月19日
北海道宇宙科学技術創成センター
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-今月の目次-
☆ 研究最前線⑥-佐鳥 新 教授
☆ ロケット発射連絡会議 報告
☆ 北海道スペースポート研究会 報告
☆ 経営企画委員会 報告
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○ 研究最前線⑥ ○
○ 衛星搭載用センサーを地上に設置し、○
○ 農業圃場の生産管理システムを構築 ○
北海道科学大学工学部電気電子工学科 教授
北海道衛星株式会社 代表取締役 佐鳥 新 氏
(宇宙システム工学)
香川高等専門学校電気情報工学科 准教授 村上 幸一
(知識工学)
道科学大の佐鳥新教授が人工衛星搭載用に開発したハイパースペ
クトルカメラ(HSC)を地上に設置して農業圃場を定点観測する共
同研究が6月から、愛媛県西条市で始まった。栽培されている農作
物のスペクトル情報をデータベース化し、品質向上に役立てよう
という国内でも初めての試みで、農業に「衛星データ」を活用する
新しい生産管理システムのモデルケースとして注目されている。
圃場の定点観測は、道科学大の佐鳥教授と佐鳥教授が立ち上げた
ベンチャー企業「北海道衛星」、香川高専・村上幸一准教授の共同研
究として始まったもので、日本経済団体連合会(経団連)が民間主
導の経済成長モデルの構築を目的に2011年にスタートさせた「未
来都市モデルプロジェクトの一環として位置付けられている。
定点観測されているのは、西条市鍋倉新開地区にある農業生産法
人「株式会社サンライズファーム西条」の圃場。6月19日、10アール
の水田のわきに建てた高さ5メートルの鉄塔の先端に佐鳥教授が
開発したHSCを据え付けた。毎日1回、道科学大の佐鳥研究室の隣に
あるベンチャー企業「北海道衛星」から撮影指示を出し、インター
ネットで取得されるデータを札幌で一次解析、そのデータを香川
高専高松キャンパスの村上研究室に送り返して農産物の生産管理
情報として分析される。
HSCはデジタルカメラと同じ電荷結合素子(CCD)方式で撮影された
画像(30万画素)を、近紫外から近赤外までの141段階の光の波長
(スペクトル)に分解、データ化する。このうち2種類の波長データ
を使うことで植物の活性度を調べる正規化植生指数(NDVI)を算出
し、指数の変化で植物の生育状況や品質を評価する。
今回の定点観測では、光の波長情報のうち770ナノメートルと660
ナノメートル幅のデータを使ってHSCの特徴である狭帯域の正規
化指数を割り出し、水稲の葉内窒素含有量をデータ化する。この指
数は窒素施肥量に相関するといわれ、数値の推移を見ながら水田
の水量を調整したり、窒素肥料を追加するなどの品質管理を行い、
窒素含有量のバラつきによる品質低下などの防止を目指す。
実験圃場で連作障害の防止のために栽培されている水稲は9月中
旬までに収穫され、9月下旬からは二毛作としてレタスが栽培され
る。圃場では日照や気温などの気象情報も観測されており、HSCの
データとともに集積されてゆく。露地栽培の情報がデータベース
として蓄積されれば、正規化指数の変化から作物の生産管理が可
能となるほか、将来的には人工衛星のスペクトル情報から地上の
作物の育成状況を推測することも可能になるという。
共同研究者の村上准教授は農作物の播種日や作業、管理データを
パソコンなどに打ち込んで施肥適期や収穫予想を割り出す農業支
援システム「・Farm」を地元で立ち上げており、今回はその生産履
歴情報に加え、HSC情報で作物の生育度など品質面からも光学的に
評価する。
農作物の精密な育成評価を生産現場で行うことは、「これまで日本
の農業では行われていなかった」(佐鳥教授)といい、村上准教授は
「HSCを使うことで、広い面積の作物を『非破壊』の状態で品質評
価することができる。『・Farm』と組み合わせることで等級のば
らつきを均等にし、レタスなどのブランド化を実現させたい」と話
す。
今回の定点観測は、経団連が2011年から全国12か所で実施してい
る「未来都市モデルプロジェクト」の一環。環境・エネルギー、医療、
交通などの分野で実証実験を行って経済の成長モデルを構築する
ことを目的としており、神奈川県藤沢市の「環境創造都市」、福岡県
北九州市の「アジア戦略・県境拠点都市、」岩手県南部地区の「循環
型バイオマス都市」などのプロジェクトがあるが、農業部門で西条
市の「農業革新都市プロジェクト」が選ばれた。
西条市のプロジェクトには「施肥、防除工程の管理化による農業生
産の効率化」(住友化学)、「GPS(衛星利用測位システム)を利用した
農業機械の自動走行技術の開発」(日立造船)などに加えて「ネット
ワークカメラを活用した圃場管理システムの開発」(パナソニック)
が含まれており、その研究開発の一環としてHSC管理システムが採
用されることになった。
経団連プロジェクトの実施期間は2011年から4年間で来年3月には
終了するが、香川高専の村上准教授は、「様々な補助事業を使うこ
とで少なくとも2年間、できれば5年は続けて情報のデータベース
化を実現させたい」と話す。
HSCには、佐鳥教授が2013年春、衛星搭載用ハイパースペクトル技
術を応用して製品開発した2次元画像装置「コスモスアイHSC1702」
の光学装置を転用した。農業用計測システム(通信機能付き)は2台
以上のセットで500万円程度の販売価格となる。既存の衛星画像は
光の反射率(スペクトル)が4~8帯のマルチバンドできめが粗く、価
格も1枚で40万円から200万円するが、「HSCだと毎日撮影でき、細か
く分析することも可能」と佐鳥教授。
村上准教授は昨年、大学教育に宇宙開発を取り入れようと活動す
るNPO法人UNISEC(大学宇宙工学コンソーシアム)を通じてHSCの存
在を知り、圃場の観測手段として使うことを決めた。
正規化指数を使った生産管理では、使用する光の波長データを変
えることでコメのたんぱく質やお茶のカテキンなどを調べること
ができるほか、成長の劣化によって病害虫の発生を予測すること
も可能といい、「このシステムは様々な農作物の育成調査に活用す
ることができる。今回の実験を踏まえ、衛星利用技術を農業に応用
するモデルを確立させたい」と佐鳥教授は話している。
(小田島 敏朗)