A PIECE OF FUTURE

美術・展覧会紹介、雑感などなど。未来のカケラを忘れないために書き記します。

未読日記314 「寡婦と香草」

2009-09-20 23:14:22 | 書物
タイトル:寡婦と香草
著者:福田尚代
印刷:緑陽社
発行日:2009年8月26日
初版 限定 100部 全72頁 文庫サイズ
内容:
美術家・福田尚代による新作の回文をまとめた文庫サイズの回文作品集。

頂いた日:2009年9月3日
著者の方より頂きました。ありがとうございます。
突然届けられた美しい書物に、見とれてしまった。

 回文とは、上から読んでも、下から読んでも同じ文章になること。福田尚代は、書物をモチーフとした作品で知られるが、回文による作品も発表しており、これまでも数冊、回文集を発行している。だが、書物の内容としては、回文という形式にとらわれずに読むことが可能である。むしろ、回文における遊戯性や技術的なクオリティにばかり気をひくと、書物を読むという行為自体が浅薄な経験となってしまうので、回文ということは一先ず忘れ、一冊の書物として、一つの文章、言葉と向き合いたい。

 福田氏の作品集を読むと、これは美術家にしか書けない文章だと感じてしまう。誰でも文章は書けるし、システム的な回文ならば誰でもできると思われるかもしれない。だが、システムを踏襲することと、回文にポエジーを表すことは別の話である。加えて、これまで回文の大家という人がいるのか、私の少ない知識ではわからないが、これほど回文という形式で美しい文章を紡ぎだす作家を私は知らない。
 
 最後に本書の造本もこれまでの書物と同じようにすばらしい。表紙のグレー(やや水色っぽくもある)の上に白の帯がつけられ、さらに全体にトレーシングペーパーによるカバーがかけられる。すると、それらが層となり、柔らかい佇まいを見せるのだ。さらに、文字のフォント、紙質にいたるまで、細部まで美しい紙上空間が広がり、読者を回文の世界へと引き込む。