A PIECE OF FUTURE

美術・展覧会紹介、雑感などなど。未来のカケラを忘れないために書き記します。

未読日記190 「絵画の冒険者」

2008-05-19 23:50:50 | 書物
タイトル:特別展覧会 没後120年記念
     絵画の冒険者 暁斎 Kyosai 近代へ架ける橋
編集・制作:京都国立博物館
図書設計:大石一義(大石デザイン事務所)
図書制作:大石デザイン事務所
発行:京都国立博物館
発行日:2008年4月25日(第2刷)
金額:2500円
内容:
平成20年4月8日から5月11日までを会期として、京都国立博物館、河鍋暁斎記念美術館が主催する特別展覧会「没後120年記念 絵画の冒険者 暁斎 Kyosai-近代へ架ける橋」の解説付総目録。A4判・328頁・ソフトカバー

ごあいさつ
「曽祖父暁斎」河鍋楠美(河鍋暁斎記念美術館館長)
「暁斎は十八世紀京都文化の正しき継承者」狩野博幸(同志社大学教授)
「暁斎と外国人-出会いから交流へ」ティモシー・クラーク(大英博物館アジア部日本セクション長) 助川晃自訳
「暁斎が狩野派から得たもの」山下善也(京都国立博物館主任研究員)
図版
1 「狂斎」の時代
2 冥界・異界、鬼神・幽霊
特集「本画と下絵」
3 少女たつへの鎮魂歌
4 巨大画面への挑戦
5 森羅万象
特集「写生と粉本」
6 笑いの絵画
7 物語、年中行事
8 暁斎の真骨頂
作品解説
暁斎年表
暁斎をめぐる人々
出品目録
List of Works
Description of Sections
Preface

購入日:2008年5月4日
購入店:京都国立博物館
購入理由:
今回の京都行きのメインイベント。京博では過去に若冲、蕭白の近世絵画の画家を取り上げた展覧会を開催してきたが、暁斎はサブタイトルが示すように近世から近代へと移りいく時代の画家であり、その意味で近世絵画の集大成といえる展覧会かもしれない。

冒頭から冥界、異界、鬼神、幽霊らを描いた凄まじい世界が展開する。しかし、ここで見られる残酷・怪奇描写のリアルさは、その世界に行ってしまった者が描いたとは思えない。何か意図しているというか、サービス精神過剰なアクの強さと言おうか、そんな突き放したフィクショナルな視点が混入されており、それが暁斎を「近代」の作家だと私には思わせる。そんなサービス精神過剰ぶりに呆れるのが、放屁合戦絵巻に見られる毒のある笑い、言葉を変えれば下品な作品である。ここには暁斎の暴走ぶりというか、悪乗りぶりが垣間見られる。今の時代では、このようなギャグマンガ風な表現が受けるのだろうが、過去の作品ながら「今」の作品過ぎて私にはあまり訴えてこない。

これら前半のセクションでは、暁斎のイメージ通りの作品が並び、一般的には満足して帰られる内容なのだろう。だが、ここまでだったら暁斎の評価はここまで上がりはしなかったろう。本番はここからだ。
狩野派で鍛えた技術と浮世絵風なエキセントリックな構成を駆使し、その奇想に技術を沿わせていく。例えば、「地獄太夫と一休」など、まとまりのある構成で単体に描けばいいものをこの人はそうはしない。地獄太夫の衣装の絵柄など細部まで描きこまれ高い完成度を持ちながら、されこうべを踏みつけて踊る一休がそばに描かれるのだ。この諧謔精神を見ると暁斎はよほどクールな人間だったに違いない。そう思うとどこまで本気かわからないが、「観世音菩薩像」という精緻きわまりない美しい作品もあり、暁斎という画家のキャパシティにエンタテインメントとアート性の両立を見てしまう。
このアクの強さ(わかりやすさ)が外国人受けする理由でもあるが、あらためて通覧すると意外に繊細な細部や後半の狩野派的モチーフ選びに暁斎のイメージを裏切るものもあり発見だった。よくコメディを演じる俳優が、意外とシリアスな演技がうまかったりするが、そんな器用さ、冷静さをこの人を持ち合わせているのかもしれない。しかし、そう思わせているふしもなくそこがまた自我に没入しきっていない「近代」人暁斎らしく、つかみ所のないトリックスター画家なのである。

追記:東京に戻り、図録をパラパラ見ていると、やはり暁斎は江戸(東京)の人だな、と思う。笑いの質もモチーフの切り口も江戸らしい。なにかテクニック主義というか観念的で、それはそれで楽しいし、痛快ではあるが、開催地・京都という地を考えるともう少し「品」のあるものが見てみたかった気もするのである。しかし、それは暁斎のせいではなく、企画者側の話だが。