A PIECE OF FUTURE

美術・展覧会紹介、雑感などなど。未来のカケラを忘れないために書き記します。

未読日記189 「南画って何だ?!」

2008-05-15 23:52:38 | 書物
タイトル:南画って何だ?! 近代の南画-日本のこころと美
編集:兵庫県立美術館、飯尾由貴子
発行:兵庫県立美術館
発行日:2008年4月22日
金額:1800円
内容:
2008年4月22日-6月8日にかけて兵庫県立美術館において開催された<村上華岳・水越松南生誕120年記念 南画って何だ?! 近代の南画-日本のこころと美>の展覧会図録。
A4版・288ページ

「日本における南画の展開」木村重圭(甲南女子大学教授)
図版
 第1章
  Ⅰ 先駆者たち 大雅と蕪村
  Ⅱ 南画の展開
 第2章
  Ⅰ 幕末から明治にかけての南画
  Ⅱ 巨星 富岡鉄斎
 第3章
  Ⅰ 新南画 南画の新たな展開
  Ⅱ 異色の南画 水越松南
  Ⅲ 心象の絵画 村上華岳
 第4章 洋画家たちと南画
「「南画って何だ?!」近代の南画をめぐる一考察」飯尾由貴子(兵庫県立美術館学芸員)
「南画と洋画のディアレクティーク?!」速水豊(兵庫県立美術館学芸員)
関連年表
作家別掲載ページ
出品リスト

購入日:2008年5月3日
購入店:兵庫県立美術館 ミュージアムショップ
意外とまとめて見る機会のなかった「南画」をテーマとした展覧会。しかし、私のお目当てはまとまって見る機会のほとんどない村上華岳である。しかし、華岳が「南画」なのかというと、タイトル通り「?!」ではある。ちなみに、この不思議なタイトルは以前、兵庫県立美術館で行なわれた<「具体」ってなんだ?>展(2004)からの流用か。なお、タイトルに冠せられている水越松南は今回初めて知ったのだが、私の好みではないため割愛させていただく。
やはり、華岳の作品は圧倒的である。いまだ筆舌に尽くしがたい印象をどのように言語化すればいいのかわからない。その作品の前に立つと、作品から途方もないエナジーが発せられ、吸い込まれてしまうのだ。例えば、「紅葉の山」(1939)だ。その紅く染まった木々には恐怖さえ憶える。見ることにこれほど緊張と崇高さを併せ持つ絵画体験はそうはない。しかし、この緊張感を味わいたくて、私はまた華岳の作品の前に立つだろう。

この展覧会は蕪村から始まる。偶然なのか、滋賀のMIHO MUSEUMで行なわれている<与謝蕪村 翔けめぐる創意>展も開催中であり、蕪村から始まる南画・文人画の流れを一望できる。しかし、蕪村以降の「南画」を見ていくうち、私にはこの展覧会のテーマが「近代」なのではないかという気がしてきた。それは、出品作品が江戸から明治、大正、昭和へと続いていくことからもわかる。極めつけは「南画」の近代として最終章に設けられた洋画家による「南画」である。萬鉄五郎、梅原龍三郎、須田国太郎らの作品は日本画・油絵の越境という括りだろうが、これは東京国立近代美術館で行なわれた<揺らぐ近代 日本画と洋画のはざまに>展(2006)を思い起こさせる。洋画家の日本画への転身あるいは影響を言い出すと「南画」でなくとも「文人画」「水墨画」「日本画」であれなんでもいいのではないか。南画展ではラストに山口長男の抽象作品までも出品されていたが、余計に「南画って何だ?!」という気にさせられてしまった。やや飛躍しすぎな気もする。いくら山口が「墨を主とする骨格描写」をやっていたからといって、それを「南画」という視点から見ていいものだろうか。
だが、GWにもかかわらずほとんど人が入っていないこのような展覧会を行なう美術館には評価したいものだ。次回は蕪村、池大雅らの南画から過去に辿る展覧会を見てみたいものだ。その方が、「南画って何だ?!」という疑問が解ける気がする。