A PIECE OF FUTURE

美術・展覧会紹介、雑感などなど。未来のカケラを忘れないために書き記します。

memorandum 202 不在の人

2015-11-16 23:52:37 | ことば
ところで、不在とは他者についてのみ言えることなのだ。出発するのは相手の方であり、わたしはとどまる。あの人はたえず出発し、旅立とうとしている。本来が移動するもの、逃げ去るものなのだ。これとは逆に、わたしは、恋をしているわたしは、本来が引きこもりがちで、不動で、受身で、待ちつづけ、その場に押しひしがれ、取り残されている。人目につかぬ駅の片隅に置かれた小荷物のように。恋愛における不在とは一方通行なものであり、出発する者からではなく、とどまる者からしか語りえぬものなのだ。たえず現前するわたしというのは、たえず不在であるあなたの前でしか成立しない。不在を語るとは、したがって、主体の場と他者の場とが交換されえないと主張することだ。つまりは、「わたしは、自分が愛しているほど愛されていない」と言うことなのである。
ロラン・バルト『恋愛のディスクール・断章』三好郁朗訳、みすず書房、1980年、22-23頁。