オセンタルカの太陽帝国

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『ユゴスの星より』。

2006年08月24日 23時18分40秒 |   ゲーム本

 
                    ≪ヒマラヤの雪おとこ≫

ぶーぶーぶー!!
冥王星が無くなってしまうんですって。
なんてこったい。冥王星がなくなったら、困る人がたくさんいるんじゃないですか?
私と同趣味の人だったら、まっさきに思い浮かべるのは、ヒマラヤの雪男の事だと思います。ヒマラヤの雪男は冥王星から来てると信じている人はいっぱいいると思うのです。それが冥王星がわれわれの地球と同じ惑星じゃないとなってしまった場合、ヒマラヤの雪男に対して感じていた同胞意識が、激しい混乱をきたしてしまうことはまちがいありません。たとえ太陽系から無くなるわけじゃなかったとしても。水星には透明のスカイフィッシュが、金星には金色の肌の美女がいて、火星には美女デジャー・ソリスがいる。同じように土星(サイクラノーシュ)にはたくさんの猫とフジウルクォイグムンズハー様が、天王星には高貴な人々が、そして最果てたる冥王星には雪男がたくさんいたことになっていたのに。そういうわれわれの小さい頃からの認識が、たった一日の決議で覆されてしまうのは、正直言って腹立たしいことです。

・・・・な、なんの話なのかというと、私が小さい頃から好きだったハワード・フィリップス・ラヴクラフト(H.P.L.)という小説家とその仲間たちの書いた物語に、そういう内容の一連の作品があるんですよ。私は冥王星については詳しくはないのですが、C. W. トンボーが冥王星を発見したのは1930年2月18日。でも天文マニアでもあったHPLはその前年から知られざる惑星ユゴス星を舞台とした長編詩を書いており、いろんな雑誌に断片的に発表されたそれが完結したのは、冥王星の発見の一月前である1月4日だったのでした。まだ発見されてはいないけれども当然発見されるべき天体として、多くの人たちから冥王星は期待されていたんですよね。つまり冥王星は、発見されるべくして発見されたものなのです。(それがあまりにも常識はずれな天体だったために発見されるのが遅れたのだけど)。冥王星の発見のニュースが届いたとき、HPLは同主題の次の作品「闇に囁くもの」(※バーモント州にいるヒマラヤの雪男=カニが出てきます)にとりかかっていて、そのニュースに大歓喜したというのでした。・・・・この「闇に囁くもの」は、東京創元社のHPL全集の第一巻に収録されていて、だからわたくしどもにとってはとても思い出深い作品なので、そのエピソードもとても愛しているのに、それが、今日になってたった一日で全部変えられちゃうなんて、ふざけてる。
だって、私は(天文ファンじゃないから)そんなことが議論されているなんて知ったのは今日の朝のワイドショーですよ。何年も前から激しく議論されていた、なんてことを聞いていたら少しはしょーがないなー、なんて思うかも知れないけれど、私は今日のニュースを見ていて、大事な事が一部の人々の恣意的な独善的意見によって一瞬で変えられてしまったように感じた。冥王星は惑星としてはかなり風変わりで、さまざまに問題があるということは聞いた事はありますけど、だからこそ「宇宙って不思議だなー」と小さ心に思えるんじゃないですか。子供にとってもいい教材だと思う。それを「小さいから排除」だなんて、ふざけているると思うのです。
・・・で、テレビで松本零士が出てきて、同じように(というか別の口調で)怒っている姿を見て笑ってしまいました。

 

さてさて。
連作詩「ユゴス星より」と小説中篇「闇に囁くもの」は表裏一体の作品だと思うのですが、読んで得られる感慨はまったく正反対です。前述したように「闇に囁くもの」は、HPL入門者が最初に手にする事になるだろうもののひとつなのですが、多分一巻目に収録されている4編の中の最後のコレを読んだあと、読んだ人の8割は2巻目に手を伸ばさないだろうね。そんな、入門者に対するカベ的作品なのです。なにが凄いって、描写がやたらとくどいんです。意味も無い(←なんてマニアは言っちゃダメだぞ!)綿密な情景の描写が延々と続く。なにしろ冒頭で「目に見えることはなにひとつとして起こらなかったのだ」という一文で始まるこの小説は、町に住んでいる物好きが山の中に、変な事ばかり言っている男を訪ねるはなしで、本当にもしかしたら何にも起こらなかったのかもしれないんですよね。それを作者得意の圧倒的な筆力で延々120ページ、ただ読者に「何か怖ろしい事が裏で起こっているのかもしれない」と錯覚させるために、細々とした描写の見事な積み重ねがなされているんですよね。慣れない人にはこれは多分苦痛だろうけど、2度読めば存外おもしろい。その分、その場にあることはもらさずきっちりと描写し、読者に思う存分夢想をさせるのが、この作品なのです。

一方、「ユゴスの星から」。
これは正直言ってさっぱりわけわからん。単行本で47ページに及ぶ長詩で、一定の形式に従って36のパートに分かれているのですが、これが最初から最後までがひとつの物語になっているのだろうと思って読み進めると、3つ目の詩ぐらいで眩惑されてわけがわからなくなる。・・・どうやらこれは、一つ一つの部分が独立した物語で、それぞれの前の部分と後ろの部分は関係がないらしい、と気付くのは10つ目ぐらいです。情報量が少なすぎるので、これが繋がっているのかバラバラなのかも分からなかったのでした。そうだと知って良く眺めてみると、HPL独自の豊富なイマジネーションのイメージの羅列です。彼の中篇作品の作品メモみたい。それで、きっとどこかにユゴス星とはなんなのか書いてあるパートがあるに違いない、と思いながら最後まで読んでみても、結局そんな部分は無いんですよね。HPL作品ではおなじみの「宇宙の中心でフルートの音に合わせて踊っている巨大な邪神」や「エジプトからやってくる黒いファラオ」や「港町でおこなわれている魔宴」などのイメージが次々と出てきますが、これらはユゴス星とはまったく関係ないですもんね。作品中に「ユゴス」という単語が出てくるのはたったの2回で、それは大した意味のない場所で使われます。では、標題の「ユゴスの星より」とは何なんだろう? と思っていると、はっと気付く事があります。そういえば、何回も何回も、激しく寂しい場所の風景の事が語られている。そういえば4つ目の詩で、「そういえば小さい頃のことを思い出した。小さい頃に見た風景、異形の灰色の野、それはわれわれの世界ではなくてユゴス星から来たやつらの世界だ。そして、よく考えてみれば私の姿は彼らとそっくりだ」というのがあるのです。最初は、これはHPL作品での定番、「怪物たちから命からがら逃げ出したと思ったら、実は私もその怪物だった」のパターンの一つかと思っていたんですが、そういえば各詩のタイトルに「思い出」とか「帰郷」とかいう言葉を冠しているものの多い事に気付く。要するに、この36の詩は怪物である主人公が宇宙を飛び回って見ている光景で、特に固有名詞が付せられていない寂しい光景をうたったものは、主人公の故郷のユゴス星の風景なのね。港町とか古びた教会とかが頻出するので、(怪物もたくさん出てくるけど)、地球上の事だと思っていました。そこまで気付いて、ようやくこの脈絡のない壮大な詩の意味が分かってきました。わ、わかりづらいわいっ。「闇に囁くもの」とは作品中情報の質が、全く違うのでした。

≪闇に囁くもの≫より
彼らが主として集まっている目下の住まいは、まだ人間に発見されるにいたっていないほとんど光のない惑星で、これは太陽系のそれこそ端にあって    海王星よりも遠く、距離の点では太陽から九番目に当たる。この惑星は、すでに推察しているとおり、ある大昔の禁断の文書の中に「ユッグゴトフ」という名で秘教的にほのめかされているものである。そこはまもなく、精神の霊感通信をうまく成功させようと努めて、奇妙にも思考の思念の念波をこの地球に向かって集中してくるその現場となるだろう。その思念の念波の滔々たる流れに天文学者たちがいち早く気付き、その結果ユッグゴトフを発見するにいたる、ということになっても私は驚かないだろう。そのときは宇宙人が学者たちに、そうさせたいと思ってそうなるのだから。だが、ユッグゴトフはむろん、飛び石にすぎない。宇宙人たちの本体は、風変わりな準備の整った、底の知れない深みに住んでいるが、そこはいかなる人間の想像も遠くおよばないところだ。われわれが全宇宙的実在の全体だと認めているこの地球という時空の小球体は、真の無限の中にある一個の原子にすぎず、そしてその無限は彼らのものなのだ。その無限から、現代のいかなる人間も受け取りえないほど大事なものが、やがて私に解明されることになっているのだ。

・・・上の文章、怪しげな宗教のものみたいですが、この作品が第二次大戦開始の何年も前に書かれたものだということをご勘案くださいね。しかもこれは、やがて宇宙人に誘拐されることになる真面目なおっさんが、変になりはじめる頃、語っていることなのです。

≪ユゴスの星より≫
XVII.或る記憶
星月夜 段状の果て無き岩高地
リンと鳴る 鈴の家畜の
毛深き群れに 微光を散らす
奇妙なる野営。
南方遥かに傾斜して伏す大平原
終わり無き時の冷えて石化せる
太古の大蛇のごとく
終極に鋸歯の壁影を落としたり。

稀薄なる冷気のうちに ふと戦慄を覚ゆ
此は何所にして如何に来たるか覚えざり。
野営の炎を背に受けて外套の人影
立ちて我に近づきて 我が名を呼びたり。
其の頭巾の下の死せる顔を見
希望失しけり    全て解りける故に。

この前後の詩はこれとは全く関係がないので、このエピソードに関して与えられる情報はこれがすべて、ね、まったくわけわかんないんでしょ? でも、作者はこれで「イメージせよ」と言っているのだ。そしてこれが30連も続くと、情報は自然に蓄積されて、全体が巨大な伽藍になっているのだ。「ユゴスの星より」はそういう作品。・・・・ていうより、この作品、私の手持ちの本では「ユゴスの星より」となっているんですが、英題は「Fungi from Yuggoth」(ユゴスから来た黴)なんですよね。カビ? その原題を知ったら、タイトルに意味が無いことは一目瞭然だ。

 

で、
私は上に描いたピンク色のモジャモジャを「ヒマラヤの雪男だ!」と常に言い張っているんですが、私がそんなことを言うのは、「闇に囁くもの」でそう描かれているからなんですよね。「どこが雪男なの!?」「おかしいんじゃないの?」と思われる人もおられるかもしれないですが、HPLはいろんな作品で繰り返し繰り返し、「宇宙の外にあるものは地球の原則にとらわれない」、「関係無さそうにみえること同士の関連の重要性」、「人の理解の埒外にあるものを目撃してしまった場合、その伝聞はあらぬ方へ向かっていく」ということを語っているので、これでいいのです。意外と本当に雪男やネッシーはこんな姿かも知れませんよ(笑)。人はだれも、ヒマラヤの雪の中にもしゃもしゃの大きな蟹がいるなんて思っていないから、「もじゃもじゃな物が立っていた」「おおきかった」「毛むくじゃらだった」「飛ぶように早く駆けた」「ピンクだった」「白かった」「あれはきっとサルだ」、なんて言ってしまうんですよ。あれはきっとサルだと思ったのは網膜の以上と状況のいたずらが生み出した錯覚で、本当はカニかカビなんです。

で、ちょっと困っているのが、絵にしてみようと資料を漁るとき、本によってイラストによって、若干再現イメージの食い違いが大きく出てくることです。ま、HPL自身が謎めかしてイメージしずらい描写で妄想を喚起しようとしてした結果なので、当然のことなんですけどね。
でも折角なので、いろんな本のミ=ゴの絵をコピーして、コレクションしてみました。
みて、みて! くらべてみて!

 
一番有名なゲーム「クトゥルフの呼び声」はこれまで4回日本語訳が出版されていますが、その都度イラストが違います。
左が93年d100版(2回目)のゲームのルールブックのイラストで、右が04年d100版(4回目)のもの。その以前の初日本語訳のものは、シルエットのみでした。
でも、こりゃ虫だ! どうみてもカニじゃなくて虫だよおかあさーーーん!

  
左のが、若干ルールの仕組みが違う2004年度d20版ルールブックのもの。この本はとてもイラストに力を入れているのですが、これはとても夢幻的。(でもこの本、ここの部分に誤植があって、“星の精と彼方よりのもの”と書かれてしまっているのでした)。右は、88年に出版された『クトゥルフハンドブック』に付せられた草ナギ琢仁のイラスト。この当時はイラストが少なく(ネットも無かったし)、変なのしか無い時期だったので、その中ではこの絵が一番大好きでした。

 
同じ「クトゥルフ・ハンドブック」に載っていたアメリカ産ゲーム用メタルフィギュアの紹介写真。左の方には「おいしそう」、右は「キノコだといわれても納得できる」というコメントが付されていた。そして、この2つの写真を見て私は、姿はいろんなバリエーションがあってもいいんだ、と思ったのでした。


88年版の傑作シナリオ「ユゴスからの侵略」に付いていたイラスト。このシナリオ、タイトルもとてもそそるんですよね(^-^) 臨場的なのもイイ。

 
カードゲーム『クトゥルフ・ホラー』の中の一枚。もう一枚、ミ=ゴの別イラストがあったのですが、そのカードどっかにいってしまいました(笑) この姿だったら、雪の中にいたら大きな人型に見える。右のは、朱鷺田祐介の『クトゥルフ神話ガイドブック』(2004)の中のイラスト。


学研の『クトゥルー神話大全』の中の矢野健太郎のイラスト。ちゃんとカニに見えますね。これはこれでなかなか、、、、 じゅるり。

・・・・・・で、この手のイラスト集としては元祖的存在で、でもミ=ゴに関しては一番変なイラストが載っている名著『サンディ・ピーターセンのクトゥルフ・モンスター・ガイド』を堂々と掲げようと思ったんですが、その本だけいくら探しても見つからなかったのでした。しくしく、おかしいなぁ、何週間か前に部屋のどこかで見た記憶があるのに。あの絵はおもしろいのに。


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