長岡京エイリアン

日記に…なるかしらん

勝ち負け言うつもりはないけれども!  映画『日本のいちばん長い日』

2015年08月17日 22時51分28秒 | 日本史みたいな
 はいはいど~も、こんばんは! そうだいでございます。みなさま、夏まっさかりの今日このごろ、いかがお過ごしでしょうか?

 私はいろいろ言っているように、今年は実に18年ぶりに山形で夏を味わうという生活を送っているところなんですが、さすがは盆地、東北だって夏の暑さはそんなに変わんないやねぇ。ただ、朝夕がしっかり涼しくて、熱帯夜もどうやらなさそうなのがとってもありがたいです。ほんとに暑いのは日中だけなんですね。もちろん、外に出たときの熱中症は十二分に気をつけないといけませんけど。

 そんな、千葉時代に比べたらいくらか楽な夏をエンジョイしているわけなんですが、ヒマなときはいちおう映画を観にいっとこうかということで、今回もちょっと気になっていた1本を観てきました。
 まぁ、そんなに期待して観に行ったわけでもないんですが、やっぱり終戦から70年目という今年のタイミングを考えたら、これはスクリーンで観とかなきゃいかんのじゃなかろうか、ということでありまして。


松竹版『日本のいちばん長い日 THE EMPEROR IN AUGUST』(2015年8月8日公開 136分 松竹)
 半藤一利のノンフィクション『日本のいちばん長い日 決定版』を原作に映画化され、戦後70年にあたる2015年に全国公開された。

主なスタッフ
監督・脚本 …… 原田 眞人(66歳)
撮影    …… 柴主 高秀(57歳)
美術    …… 原田 哲男(49歳)
音楽    …… 富貴 晴美(30歳)
編集    …… 原田 遊人(37歳)
製作・配給 …… 松竹


主なキャスティング
内閣総理大臣・鈴木貫太郎    …… 山崎 努(78歳)
外務大臣・東郷茂徳       …… 近童 弐吉(55歳)
海軍大臣・米内光政(元首相)  …… 中村 育二(61歳)
陸軍大臣・阿南惟幾       …… 役所 広司(59歳)
情報局総裁・下村宏       …… 久保 酎吉(59歳)
内大臣・木戸幸一        …… 矢島 健一(59歳)
枢密院議長・平沼騏一郎(元首相)…… 金内 喜久夫(82歳)
国務大臣・安井藤治       …… 山路 和弘(61歳)
国務大臣・左近司政三      …… 鴨川 てんし(67歳)

内閣書記官長・迫水久常        …… 堤 真一(51歳)
総理大臣秘書官・鈴木一(貫太郎の長男)…… 小松 和重(47歳)
宮内省庶務課長・筧素彦        …… 笠 兼三(41歳 笠智衆の孫)
陸軍大臣官邸の女中・絹子       …… キムラ 緑子(53歳)

阿南綾子(惟幾の妻)   …… 神野 三鈴(49歳)
阿南喜美子(惟幾の次女) …… 蓮佛 美沙子(24歳)
秋富(阿南喜美子の婚約者)…… 渡辺 大(31歳)

鈴木たか(貫太郎の妻)     …… 西山 知佐(50歳)
陸軍大将・鈴木孝雄(貫太郎の弟)…… 福本 清三(72歳)

陸軍省軍務課員・井田正孝中佐           …… 大場 泰正(42歳)
陸軍省軍事課長・荒尾興功大佐           …… 田中 美央(41歳)
陸軍省軍事課員・椎崎二郎中佐           …… 田島 俊弥(35歳)
陸軍省軍事課員・竹下正彦中佐(阿南陸軍大臣の義弟)…… 関口 晴雄(39歳)
陸軍省軍事課員・畑中健二少佐           …… 松坂 桃李(26歳)
陸軍参謀総長・梅津美治郎大将           …… 井之上 隆志(54歳)
陸軍第二総軍司令官副官・白石通教中佐       …… 本郷 壮二郎(39歳)

陸軍東部軍管区司令官・田中静壱大将 …… 木場 勝己(65歳)
陸軍東部軍管区参謀長・高嶋辰彦少将 …… 奥田 達士(47歳)

陸軍近衛師団第一師団長・森赳中将      …… 高橋 耕次郎(53歳)
陸軍近衛師団参謀長・水谷一生大佐      …… 香山 栄志(47歳)
陸軍近衛師団歩兵第二連隊長・芳賀豊次郎大佐 …… 安藤 彰則(46歳)
陸軍近衛師団参謀・古賀秀正少佐       …… 谷部 央年(34歳)
横浜警備隊隊長・佐々木武雄大尉       …… 松山 ケンイチ(30歳)
陸軍通信学校・窪田兼三少佐         …… 青山 草太(35歳)
陸軍航空士官学校・上原重太郎大尉      …… 松浦 海之介(23歳)

陸軍大将・東条英機(元首相)…… 中嶋 しゅう(67歳)
陸軍士官学校・藤井政美大尉 …… 戸塚 祥太(A.B.C-Z 28歳)

海軍軍令部総長・豊田副武大将  …… 井上 肇(54歳)
海軍軍令部次長・大西瀧治郎中将 …… 嵐 芳三郎(50歳)
海軍大将・岡田啓介(元首相)  …… 吉澤 健(69歳)
米内海軍大臣副官・古川少佐   …… 原田 遊人(37歳)

侍従武官長・蓮沼蕃大将 …… 姉川 新之輔(66歳)
侍従長・藤田尚徳    …… 麿 赤兒(72歳)
侍従・徳川義寛     …… 大蔵 基誠(36歳)
侍従・三井安弥     …… 植本 潤(48歳)
侍従・入江相政     …… 茂山 茂(39歳)
侍従・戸田康英     …… 松嶋 亮太(37歳)
侍従・岡部長章     …… 中村 靖日(42歳)
女官長・保科武子    …… 宮本 裕子(46歳)

日本放送協会放送員・館野守男 …… 野間口 徹(41歳)
日本放送協会技師・保木令子  …… 戸田 恵梨香(27歳)

昭和天皇 …… 本木 雅弘(49歳)



 いや~もう、錚々たるオールスターキャスト作品でございますけどね。
 太平洋戦争の非常に重要な最終局面をドラマ化した作品、という内容にこだわらずとも、単純に現在2010年代におけるスター名鑑、として楽しめるような俳優陣になっていますよね。これはやっぱり、1800円払ってスクリーンで観なきゃねぇ。

 言うまでもなく、この『日本のいちばん長い日』は、すでに48年前に一度映画化されています。こちらもまた、今や伝説ともいえる当時の名優のみなさまが終結したとてつもないオールスター映画になっていましたね。当然、私は DVDの形でこちらを観ていたのですが、まぁ~これが滅法おもしろいんだ! かなり深刻で厳粛な「終わり」を描いた挽歌であるはずなのに、笑えるところはもちろん笑えるし、スペクタクルもちゃんとある娯楽映画になっているんですね。
 こっちのほうも、情報を載せておきましょう。


東宝版『日本のいちばん長い日』(1967年8月3日公開 157分 東映)

 モノクロ、東宝スコープ作品。 「大宅壮一・編」名義で発表されたノンフィクション『日本のいちばん長い日』(1965年 文藝春秋社)を、「東宝創立35周年記念作品」として映画化した。

 原作の本来の著者である半藤一利は、刊行された1965年当時は文藝春秋新社の社員であったため、営業上の理由から「大宅壮一・編」として出版された。序文のみを大宅が書いている。半藤を著者において「決定版」とした改訂版は、戦後50年にあたる1995年6月に文藝春秋社から刊行された。

 昭和天皇と当時の内閣が御前会議において降伏を決定した昭和二十(1945)年8月14日の正午から、深夜に発生した宮城事件(きゅうじょうじけん)、そして国民に対してラジオ(日本放送協会)の玉音放送を通じてポツダム宣言の受諾を知らせた8月15日正午までの24時間を描く。

 東宝版に登場する、航空士官学校の「黒田大尉」という人物はフィクションであり、これは、航空士官学校の上原重太郎大尉と、通信学校の窪田兼三少佐をミックスさせた人物である。現在は上原大尉が殺害犯であるとする証言が大勢だが、窪田は戦後も生き残っており、自分こそが森師団長を殺害したと証言していた。
 東宝版で昭和天皇を演じた八世・松本幸四郎は、ピントをずらした遠景撮影や手のみ後姿のみのカット撮影、および声のみで演じており、その表情が明確に作中で映し出されることはなかった。

 作中、畑中少佐が放送会館内のスタジオで放送員の館野に正面から拳銃を突きつける場面があるが、館野自身は後年、畑中少佐ではなく、少佐と一緒に入ってきた少尉が背中に拳銃を突きつけた、と証言している。


主なスタッフ
監督    …… 岡本 喜八(43歳)
脚本    …… 橋本 忍(49歳)
製作    …… 藤本真澄(57歳)、田中友幸(57歳)
音楽    …… 佐藤 勝(39歳)
美術    …… 阿久根 厳(42歳)
録音    …… 渡会 伸(48歳)
照明    …… 西川 鶴三(57歳)
製作・配給 …… 東宝

主なキャスティング
内閣総理大臣・鈴木貫太郎    …… 笠 智衆(63歳)
外務大臣・東郷茂徳       …… 宮口 精二(53歳)
海軍大臣・米内光政(元首相)  …… 山村 聰(57歳)
陸軍大臣・阿南惟幾       …… 三船 敏郎(47歳)
厚生大臣・岡田忠彦       …… 小杉 義男(63歳)
情報局総裁・下村宏       …… 志村 喬(62歳)
農商務大臣・石黒忠篤      …… 香川 良介(70歳)
大蔵大臣・広瀬豊作       …… 北沢 彪(56歳)
司法大臣・松阪広政       …… 村上 冬樹(55歳)
内大臣・木戸幸一        …… 中村 伸郎(58歳)
枢密院議長・平沼騏一郎(元首相)…… 明石 潮(68歳)

内閣書記官長・迫水久常        …… 加藤 武(38歳)
内閣書記官・木原通雄         …… 川辺 久造(35歳)
内閣官房総務課長・佐藤朝生      …… 北村 和夫(40歳)
内閣理事官・佐野小門太        …… 上田 忠好(33歳)
総理大臣秘書官・鈴木一(貫太郎の長男)…… 笠 徹(笠智衆の実子で東宝社員)
鈴木総理大臣私邸の女中・原百合子   …… 新珠 三千代(37歳)

外務次官・松本俊一     …… 戸浦 六宏(37歳)
宮内省総務課長・加藤進   …… 神山 繁(38歳)
宮内省庶務課長・筧素彦   …… 浜村 純(61歳)
情報局総裁秘書官・川本信正 …… 江原 達怡(30歳)

陸軍省次官・若松只一中将             …… 小瀬 格(36歳)
陸軍省軍務局長・吉積正雄中将           …… 大友 伸(48歳)
陸軍省軍務課員・井田正孝中佐           …… 高橋 悦史(32歳)
陸軍省軍事課長・荒尾興功大佐           …… 玉川 伊佐男(45歳)
陸軍省軍事課員・椎崎二郎中佐           …… 中丸 忠雄(34歳)
陸軍省軍事課員・竹下正彦中佐(阿南陸軍大臣の義弟)…… 井上 孝雄(32歳)
陸軍省軍事課員・畑中健二少佐           …… 黒沢 年男(23歳)
陸軍大臣副官・小林四男治中佐           …… 田中 浩(33歳)
陸軍参謀総長・梅津美治郎大将           …… 吉頂寺 晃(61歳)

陸軍第二総軍司令官・畑俊六元帥    …… 今福 正雄(46歳)
陸軍第二総軍司令官副官・白石通教中佐 …… 勝部 演之(29歳)

陸軍東部軍管区司令官・田中静壱大将 …… 石山 健二郎(63歳)
陸軍東部軍管区参謀長・高嶋辰彦少将 …… 森 幹太(43歳)
陸軍東部軍管区上級参謀・不破博大佐 …… 土屋 嘉男(40歳)
陸軍東部軍管区参謀・稲留勝彦大佐  …… 宮部 昭夫(36歳)
陸軍東部軍管区参謀・板垣徹中佐   …… 伊吹 徹(27歳)
陸軍東部軍管区参謀・神野敏夫少佐  …… 関田 裕(34歳)

陸軍近衛師団第一師団長・森赳中将      …… 島田 正吾(61歳)
陸軍近衛師団参謀長・水谷一生大佐      …… 若宮 忠三郎(56歳)
陸軍近衛師団歩兵第一連隊長・渡辺多粮大佐  …… 田島 義文(49歳)
陸軍近衛師団歩兵第二連隊長・芳賀豊次郎大佐 …… 藤田 進(55歳)
陸軍近衛師団参謀・古賀秀正少佐       …… 佐藤 允(33歳)
陸軍近衛師団参謀・石原貞吉少佐       …… 久保 明(30歳)
陸海軍混成第27飛行集団団長・野中俊雄大佐  …… 伊藤 雄之助(48歳)
横浜警備隊隊長・佐々木武雄大尉       …… 天本 英世(41歳)
航空士官学校・黒田大尉           …… 中谷 一郎(36歳)
東京放送会館警備の憲兵中尉         …… 井川 比佐志(30歳)

海軍省軍務局長・保科善四郎中将       …… 高田 稔(67歳)
海軍第302航空隊厚木基地司令・小園安名大佐 …… 田崎 潤(54歳)
海軍第302航空隊厚木基地副長・菅原英雄中佐 …… 平田 昭彦(39歳)
海軍第302航空隊厚木基地飛行整備科長    …… 堺 左千夫(41歳)

侍従長・藤田尚徳    …… 青野 平義(55歳)
侍従・徳川義寛     …… 小林 桂樹(43歳)
侍従・三井安弥     …… 浜田 寅彦(47歳)
侍従・入江相政     …… 袋 正(35歳)
侍従・戸田康英     …… 児玉 清(33歳)
侍従武官長・蓮沼蕃大将 …… 北 竜二(62歳)
侍従武官・中村俊久中将 …… 野村 明司(35歳)
侍従武官・清家武夫中佐 …… 藤木 悠(36歳)

日本放送協会会長・大橋八郎    …… 森野 五郎(73歳)
日本放送協会国内局長・矢部謙次郎 …… 加東 大介(56歳)
日本放送協会技術局長・荒川大太郎 …… 石田 茂樹(43歳)
日本放送協会放送員・館野守男   …… 加山 雄三(30歳)
日本放送協会放送員・和田信賢   …… 小泉 博(41歳)
日本放送協会技師・長友俊一    …… 草川 直也(38歳)

昭和天皇 …… 八世・松本 幸四郎(57歳)

ナレーション …… 仲代 達矢(34歳)



 こっちもすごいですよね~。東宝版であるということがよくわかるというか、円谷特撮映画や黒沢映画を子どものころから観てきた私としましては、名前は出てこなくても「見たことある、この人!」という顔が次から次へと出てくる出てくる。これぞまさしく「しっぽの先まで楽しめる」映画ということで、2時間半という恐るべきボリュームなのに、長さを微塵も感じさせない緊迫感のつるべ打ちにしびれました。
 終戦に至る流れを描いているわけなので、大人の日本人ならたぶんほぼ全員がわかっている「結末」が待っているはずなのに、そこに行くまでの一連の群像劇にまったく弛緩がないというのはもう、すばらしいの一言です。
 さすがは天下の岡本喜八監督! でも、これだけ岡本テイスト満点の大作なのに、岡本映画といえばこの人という、岸田の森サマが出ていらっしゃらないのはなぜなのか!? ……と思ってみて調べてみたら、実は岸田さんが岡本映画に出演するのは、この作品の翌年の『斬る』(1968年6月)からで、まだ出会ってなかったということなのね。岡本監督も岸田さんも、どっちもまだまだ若かったんだなぁ!


 さてさて、こんな感じでミフネは出るわ笠智衆は出るわ、黒沢年男は若さでアタックするわ天本さんは狂いまくるわという稀代の名作を向こうに回して、今回の21世紀松竹版の公開であるのですが、さぁ、どんなことになっちゃってるんだろうか?

 観た感想としては、今回の作品はあくまでも『日本のいちばん長い日 決定版』の初映画化作品なのであって、『日本のいちばん長い日』を映画化した東宝版とは、多くの部分でエピソードがかぶっているとは言いながらも、全体像としては「まったく別の作品」という印象を持ちました。
 といいつつも非常に不勉強なことに、私自身、大宅壮一・編の旧版と半藤一利の著書である『決定版』とをちゃんと読み比べていないので確たることは言えないのですが、東宝版と松竹版とでは、「物語の中心にいる人物たち」というか、主人公とその周辺に設定した登場人物の人選がまるで別になっていると感じたのです。

 具体的に言えば、東宝版では陸軍の畑中少佐、椎崎中佐、井田中佐といった若手将校たちの決起によって発生した、終戦寸前の「宮城事件」を中心に描いていたのに対して、松竹版はそこもしっかり追いつつも、そこ以上の時間と熱量をかけて、阿南陸軍大臣、鈴木総理大臣、そして昭和天皇の三者のもようを物語の中心にすえていたように感じたのでした。そのぶん、松竹版における宮城事件の描写は、確かに重大な事件ではあったわけですが、全体的に成功する可能性の低い、最初から悲観的な雰囲気の目立つドライな視点からつづられていたような気がしました。まぁ、実際もそんな感じだったのでしょうね……松山ケンイチさん演じる佐々木大尉の乱入事件なんか、もう喜劇でしかありませんでしたもんね。それらに、東宝版で中丸忠雄さんや天本さんが演じた、狂気が天下を揺り動かすかもしれないという不気味な力の台頭はみじんも介入してこないのでありました。なんというか……実に平成っぽい! 醒めてるんですよね。

 実際、今回の松竹版は、作り方のスタイルとして「終戦に至るまでの経緯を、長いスパンで遠めの距離から客観的に見つめる」という冷静さを重視していたような気がして、フィクション映画としての盛り上がりを中心において緊張の24時間を各登場人物の主観に近いカメラワークの切り替えの連続で魅せていた東宝版とはだいぶ違った戦い方をしているな、という印象がありました。
 具体的には、松竹版は昭和四(1929)年に鈴木貫太郎が侍従長として、阿南惟幾が侍従武官として昭和天皇に仕えた関係から描写を始めており、同時に畑中少佐の周辺の物語も、少佐が陸軍省軍務局に転属された昭和十七(1942)年ごろから始められています。これによって、松竹版は東宝版にはなかった、昭和天皇の終戦の意志を実現しようとする鈴木首相と阿南大臣の強い動機の源となる絆をはっきりと提示したり、畑中少佐も決して戦争を終わらせまいといきり立ちまくっているばかりの人物ではなかったという部分を強調したりしているわけです。
 確かに、東宝版ではとても軍人のようには見えなかった好々爺そのものの鈴木首相も、かつては第十五代連合艦隊司令長官も務めたれっきとした海の軍人だったのであり、黒沢年男さんが演じた畑中少佐像も、どうやら実情とはかなりかけ離れた狂気の人のように描かれていたわけで、その点、松竹版の山崎努さんは暗殺されかけた経験もあり、あの東条英機とも激しく対立する軍人であったという鈴木首相をかなりの説得力で演じ切れていたと思います。松坂さんの繊細で理知的な演技もすばらしかったと思います。
 また、昭和天皇と同じように松竹版で初めて描かれることとなった阿南大臣の家族の描写も加わったことにより、歴史的決断を迫られた偉人という描写一辺倒になった東宝版の阿南大臣よりも、温厚な家庭人でもあった彼が、そのあたたかな日々を捨ててでも戦争を終わらせなければならなかったという悲劇も強く語られていたと思います。

 そういった視点から、松竹版は主演陣のキャスティングと脚本のピントの合わせ方が非常に功を奏して、東宝版にまったく引けを取らない完成度を持つ作品になったのではないか、と感じました。それはもう、さすがはあの傑作『クライマーズ・ハイ』(2008年)の経歴のある原田監督だな、というところがありましたね。


 ただまぁ、そういうことは頭ではわかるんですけれども、「映画としておもしろいのはどっち?」という話になっちゃうと、これはど~しても東宝版としか言いようがねぇんだよなぁ!

 これはもう、他ならぬ私そうだいが「昭和生まれである」ということも非常に関係してくるので、評価が偏重していると言われても仕方のないことなのですが、だって、出てくる人たちの顔を見てるだけでどんどんテンションが上がってきちゃうんだもんね、東宝版は。三船敏郎に笠智衆に加藤武に志村喬に伊藤雄之助に土屋嘉男にエトセトラエトセトラ……もう、みんながみんなオールスター! それで全員ちゃんと自分の持ち味を「わかってる」プロばっかりなんだから、これで居眠りしろというほうが難題です。天本英世さんの佐々木大尉なんか、もう笑うしかない天才的キャスティングですもんね。これは岡本監督してやったりというワンポイントリリーフでしょう。

 それに対して松竹版はというと、そりゃもちろん演技力は東宝版にまったく負けていないのだとしても、さっき挙げた主演陣の豪華さは言うまでもないにしても、その周辺は演劇界出身の実力派を集めたというおもむきがあり、「あぁ、どっかで見たことはあるかな。」といった感じか、もしくは初めて見たような若手で固められているといった堅実な布陣でした。
 まぁ、御前会議にカクスコの人が2人いる!とか、ちょっとおもしろいところはありましたが、全体的にそんなに体温の上がるキャスティングはなく……決して悪くはないんでしょうけど、映画作品のポイントが配役だけで上がる、という効果は少なかったですよね。安井大臣を演じた山路和弘さんはムダにカッコよくて笑ってしまいました。

 思った以上に存在感が際立っていて良かったのは、松竹版初登場の東条英機元首相を演じた中嶋しゅうさんね! もっとチョイ役なのかと思ってたんですが、あぁ、こういう種類の怖い人だったのかな、と納得させるすごみがしっかり出ていたのが素晴らしかったですよね。歴史的偉人じゃなくてちゃんと生臭い軍人兼政治家として物語の中でけむたがられていたと思います。この東条さん主人公で、もう1本作ってくれないかな!?
 あと、松竹版の藤田侍従長を演じた麿赤兒さんはセリフこそほぼなかったのですが、70歳すぎにしてあまりにもきれいな45°のお辞儀にため息が出てしまいました。さすが……


 そんなこんなで今回観た松竹版は、昭和の東宝版のフィクション性とはまったく別のテリトリーに比重を置いて、かなり手堅いドキュメンタリー調の名作になっていたかと思います。映画館で観たのは正しかったと思うのですが、何度も観たいとは思わないかなぁ。その点、東宝版は完全なエンターテインメントだから、DVDを買ってでも繰り返し観たくなっちゃうんだよなぁ。難しいところなんですが、東宝版でまったく省かれてしまった人間関係がしっかり描かれたという点でも、戦後70年を迎えた人々が作った最新解釈作品という点でも、松竹版が世に出た意義は確かにあったと思います。

 本木さんの昭和天皇は……まぁ評価はできないよね。TV業界にそれほど干渉されていないという意味で、「守られた現実味のなさ」がある本木さんが起用されたのは的確だったと思うのですが、おもしろくて斬新な冒険演技はまだまだできない役柄だしなぁ。『太陽』(2005年)のイッセー尾形さんは確かにおもしろかったんだけど、あれ歴史映画じゃないもんね。
 あの徳川慶喜役もそうでしたし、「粛々としたつまらなさ」をあえて自分に課しているキャラクターを演じることが多いような気がします、モックンって。度を過ぎたイケメンっていうのも、たいへんなのねぇ~。

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