華やぐ時間

時の豊潤なイメージに惹かれて 。。。。

” 友情  ある半チョッパリとの四十五年 ”  西部 邁(にしべ すすむ) 著

2006-06-05 19:35:15 | ★本
評論家西部 邁と北海道同郷の故海野 治夫(うみの はるお)の45年間に及ぶ友情の実話である
二人は 1952年(昭和27年) 初めて出会った中学2年の時からの付き合いである
数年間の音信不通と再会  空白  再会  そして海野が自分の手記を西部へ託し  自死をする
著者西部の貧窮  海野の苛酷な生い立ち   二人の背景には戦後の北海道の社会状況がある 

二人とも札幌の進学高校のトップの成績でありながら  傍から見ると どうしようもない不良である
貧乏  鬱屈  渇望  破綻  孤独    二人の心のありよう 生き様は似ている
生活環境が異なっても 西部は海野を見つめ 海野は西部の前で心を許し 生きる孤独を忘れられる  
本は 海野の生い立ちを同伴しながら 西部自身の境遇も綴る  屈折せざるを得ない生活環境
それでも二人とも自分のそういう軌跡に 自己憐憫は持たず  決然と自分の道を行く

高校生の海野は 親がなく兄弟は離散し  居候させてもらってる居酒屋で一日一食が実情である
真冬の厳寒の北海道で コートも持てず  教室に駆け込んできてストーブの前で学生服のボタンを
はずして暖をとるとき  制服の下は下着も着ていない素裸である
教師が海野へ奨学金をもらえるよう薦めてくれて  面接官の前で生い立ちを正直に語ったら  
あまりの悲惨さに  面接官は海野を 奨学金欲しさの嘘つき呼ばわりして信じなかったという
十歳に満たない子どもが死期の迫った病身の母親の下の世話をし 着物の洗濯をするのである
母の死後  他家へ子守りに出され  朝四時に起きて 釜で飯を炊く  掃除 洗濯  子守り
水汲み  薪割り  毎日のおしめ洗いは冷水で洗濯板でごしごし洗う  あかぎれ しもやけで
腫れた手をしている十一歳の子どもが 海野なのである   真っ黒な水が流れる川の橋の上で 
「 母ちゃん、 俺をあの世に連れていってくれ 」 と十一歳の子が 小さく呟くのである
高校を中退して海野はヤクザに  西部は東大生へと道が分かれていく
海野が刑務所に入り  ヤクザの幹部になり  ヒロポン中毒になり 会わない時が数年に及んでも  
西部の気持ちは  いつも海野を気にかけ  眼差しがあたたかい

こういう生を生きてきた人の事実に  なかなか本のページが進まなかった
この頃のわたしは いろんなことに  まぁ いっかぁ  しかたないなぁ と呟いていることが多い   
この本を読んで  わたしの呟きなど何ほどのことかと思う
いまは  粛然と衿を正す思いである
                                      

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4 コメント

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飽食の現代日本人 (ニート1号)
2006-06-06 01:17:32
個人的に、西部邁の人格には?なので、額面通りには受け取れないのですが、海野治夫(この人の事は知りません)の生い立ちには胸が痛みます。彼に比べれば、現代の日本人が抱く悩みなんて、贅沢ですよね。たまには、貧しい時代の日本や現代の最貧国(アフリカ等)の人々の窮状の事を考え、自らを省みるべきなんでしょうね。
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時代のせいだけではなく・・ (rei-na)
2006-06-06 17:41:15
わたしは 西部邁という人に何の知識もなく読んだので よかったと思っています

著者が 友人海野を語ることは自分のつらい頃をも掘り起こして語ることであり 手記を預かってから執筆までに数年を要したこと わかるような気がします

海野に寄り添い わが身を語るように話し 海野の自死への予感にも 西部は信頼を見せるのです

海野治夫は 身内の出自の判明や幼い頃の過酷な境遇にも拘らず 長じてヤクザになっていくにも拘らず 不思議に清潔な印象の人です

両親のいた西部邁の高校時代も 週に何回か弁当を持てず昼食代もなく 海野と共に昼休みを校庭でボール蹴りをしていたという

成長期の男子高校生の空腹 日常化している飢餓  本当に絶句です 

この本では貧窮のことだけではなく 二人の男性の遠くにいても繋がっている友情  精神の孤立無援のようなものに惹かれて読みました
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裏読み? (ニート1号)
2006-06-06 23:01:38
西部邁はTVの討論番組で見る限り、非常に独善的で寛容性に欠ける「自分に甘く、他人に厳しい」人間の典型という印象を持っています。大変な知識人ではありますが、私は信用できないんですよね。だから、書いてある事もどこまで真実か・・・ 

保守論壇界で確固たる地位を築いた今、ある意味、かつての友人を見下ろす意識を隠しつつ、過酷な人生を歩んだその友人を題材にして、自らの人格を美化する意図があるのでは?と勘繰ってしまうのです。

私はこの本を読んでいないし、ひねくれた性格なので、このような推測をしてしまいます。rei-naさんには、申し訳ないですけど・・・
返信する
知らぬが仏・・チック (rei-na)
2006-06-07 00:29:14
本を読み終えた後で 西部邁がどういう評論家か検索してみました

書かれた物の抜粋も内容も わたしにはチンプンカンプンでした

そして こういう評論家へは他人の好き嫌いがはっきり分かれるだろうなと思いました

案の定 ニート1号さんは そちら側のようですね  笑

>自らの人格を美化する意図があるのでは? と勘繰ってしまうのです



  こういう裏読み(?)が当たってるかどうか読んじゃろ という読み方もあるでしょうし

  だから けっして読むもんか という思い方もあると思います



>rei-naさんには、申し訳ないですけど・・



  ぜんぜん そんなことはないですよ~

  わたしは わたしなりに感得するところがあった というだけで十分なので~す 

  率直なご意見を むしろ うれしく思います  v(^。^) 
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