映画のなかの風景の描写が 詩的に きれい 雪原を馬で行く 真っ暗な夜の森を馬で行く
見渡す限りの原野に夕陽が沈む 夕暮れに輝く雲の色彩 夜の森を走ってくる列車の明かり
広く殺伐とした原野の風景に人が佇むとき 自然の中で その孤独が 際立つ
主役は ブラッド・ピット この映画で 2007年度ヴェネチア国際映画祭男優賞を受賞している
南北戦争後に 35件の強盗 17件の殺人を犯したジェシー・ジェームズという無法者の映画である
背景
ジェシー・ジェームズは アメリカ中西部ミズーリ州の農村に生まれた 1861年に南北戦争が始まると ジェシーは兄フランクが参加したカントリルのゲリラ部隊に16歳で加わる 1865年南軍が降伏し 翌年カントリル隊の残党によるアメリカ史上初の銀行強盗事件があり ジェシーも強盗団に入る 冷静で頭のいい彼は一味のリーダー格として頭角を現していく 以降15年間に渡ってジェシーたちは銀行強盗 列車強盗をしていく 新聞は 金のために強奪を繰り返す彼らの事件を南部の英雄のように書き立て ジェシー・ジェームズの名前は有名になっていく 西部開拓の幕開けの時代 世間は大資本の銀行や鉄道会社を襲うジェームズの一味に快哉を送るようになった ジェームズ兄弟たちは身元を隠し潜伏し続けるが その間に 三文小説のダイム・ノベルが彼らを美化し でっち上げた話を本にして売り出した ジェームズ兄弟にかけられた賞金額は1万ドルにまでなった
映画のあらすじ
1881年秋 ジェシーの最後の列車強盗のあと 仲間は各地に分散して潜伏した
一味に新しく加わった十九歳の若者ロバートは ジェシーの熱烈な崇拝者である
34歳のジェシーは 自分にかけられた莫大な懸賞金のせいで仲間たちの裏切りに疑心暗鬼となる
ジェシーは仲間内の裏取引や駆け引きを疑い 父親の不在を告げる少年を殺しかけたり 裏切りの確たる証拠もないのに仲間を背後から射殺する ジェシーの従兄を殺害したロバートはジェシーを恐れはじめ 仲間の隠れ場所を告げて警察と内通する ジェシーは チャーリーとロバートの兄弟を自宅に連れてきて監視する 1882年4月3日ロバートは自己保身と賞金ほしさと有名になりたい功名心のために ジェシーを背後から射殺する
数年後チャーリーとロバートの兄弟は そのときの様子を寸劇に仕立てて 各地を回る
何百回も上演されたが 「 裏切り者 卑怯者 」と罵られ 舞台へ野次が飛ぶようになる
社会から疎外されていくことに耐えられなくなったかのように チャーリーは自殺する
ロバートは得た賞金で酒場を開いたが 客は店主であるロバートへは誰も親しまず 鬱々とした日を送る
ある日 店に男がやってきて ロバートを射殺する
卑怯者ロバートの死については世間は無関心だった と 映画は終わる
ジェシーは強盗の目的のためには市民へ暴力を働き 殺害する 裏切った仲間を背後から撃つという残酷さ非情さを持つ反面 妻や子どもを大切にし 教会へ行くクリスチャンでもあった
世間は 仲間に裏切られて殺されたジェシーを南北戦争後の英雄のように その生涯を美化していった
何百人もの人がジェシーの死を悼むかのように 彼が隠れ殺された家を見に行った
ジェシーの死後 兄フランクは警察に自首して裁判は行われたが ヒーローを失ったかのような世間の反応に 特赦を与えられ 無罪となる
妻子を連れて何度も転居を繰り返す生活 新聞や本が自分の虚像をねつ造して書きたてていく
罪の意識と自己嫌悪 逃亡生活の疲れ 賞金目当ての暗殺者への恐れ 仲間への猜疑心
鬱屈を抱えて疲れているジェシーを ブラット・ピットは厳しい孤独と不安を漂わせて演じている
銀行を襲うという理由でチャーリーとロバートの兄弟を自宅へ連れてきて ロバートへ新品の銃を渡す
ジェシーは 彼らの手で殺されることを待っていたのではないかと思う
ジェシーが暗殺される場面は きれいな情景から始まる
庭で幼い娘が草を編みながら可愛い声で愛の歌を歌っているのを ジェシーは居間の窓越しに見ている
死を覚悟し誘導するかのようなジェシーの行動は 哀切である
「 銀行へ行くのに銃を腰に下げていては目立つから 外しておこう 」とソファの上に置き 壁の絵が曲がってると呟き 椅子の上に立って 額の位置を直す
このとき 絵のガラスには ジェシーの背後に銃を向けているロバートの姿が映っている
見とめてから一瞬頭を垂れ ロバートに頭を撃たれて転倒する