華やぐ時間

時の豊潤なイメージに惹かれて 。。。。

 ” コレラの時代の愛 ”   G・ガルシア=マルケス 著

2006-12-27 18:26:11 | ★本
この数日間  19世紀の頃の南米コロンビアに暮らす男女三人の愛の物語を読んで過ごした
主人公たちが十代の後半に出会ってから 50年余に及ぶ愛の軌跡の物語である

若きフロレンティーノ・アリーサは 美しいフェルミーナ・ダーサに恋をする
詩的な手紙を交換するうちに 彼女の父親に見咎められ  二年間 彼女は父親と旅に出てしまう
帰国後  彼女は 父親の望む有能な医師と結婚してしまう 

二人の50年間は 彼女の婚家先での苦労話 夫の恋人 実父のいかがわしい商いのことが綴られる
同じ町に住みながら独身のフロレンティーノは 叔父の河川運送の後継者となり 事業が成功していく 
彼女への愛の想いを育てながら  町の娼婦や未亡人  14歳の少女との肉体的恋愛を重ねていく
彼女のまわりの従姉や知人たち  彼のまわりの知人や多くの女性たちの生き方も 印象に残る

内戦が続き 近隣の町でコレラが流行り  川に死体が流れ悪臭を放つ時にも 人は異性を求める
互いが70歳を過ぎた頃 彼女の夫が亡くなり  フロレンティーノは機会を得て また彼女と親しくなる
72歳の未亡人フェルミーナの慰めに川を辿る旅を勧め  76歳の彼も同行する  
50年余を経て 今度こそ心が通い  意中のフェルミーナを抱きしめる
「 老いのすえた匂いを互いの体に嗅ぎ  皺のよった皮膚をいとおしそうに触れる 」

そんなにも長い時間を 一人の人を想い続けられるものだろうか
1960年頃の時代背景がよく書き込まれているので 上流階級や商人 貧しい人たちの暮らしぶり 
普及してくる電信 電話のこと 当時の医学などが 町の個性的な人々の様子と共に リアルさを増す

主人公たちが歳をとっていく物語を読んでいくことは  彼らが身近の友人であるような親しみを感じる
彼らの日常の生活 身内のことを共に見聞きして  読む者にも長い年月が積もっていく気にさせられる
恋しい人を50年にわたって焦がれ 待つ気持ちも  G・マルケスの語り口の魔法にかかると
ありうるかもしれない と思ってしまい  楽しめた物語である



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 ” わが悲しき娼婦たちの思い出 ”  ガブリエル・ガルシア=マルケス 著

2006-12-14 21:35:08 | ★本
南米・コロンビアの作家マルケスの小説 ” 百年の孤独 ”は好きな本で 三回も再読している
不思議な幻想が日常の中に違和なく挟まれ語られる物語性に  とても惹かれる
久しぶりにマルケスの本を手にした  ほんの数ページを読んだだけで パタンと本を閉じてしまった
「 わたしはマルケスの小説がとても好きだ   読み進んで読み終えるのが もったいない 」
あらためて そう思い  読むのを惜しいと思い  自分でも苦笑してしまう

この小説の巻頭には 川端康成の ” 眠れる美女 ”の中の一文が引かれている
” たちの悪いいたづらはなさらないで下さいませよ、 眠ってゐる女の子の口に指を入れようと
  なさつたりすることもいけませんよ、 と宿の女は江口老人に念を押した。 ” 
川端の小説の主人公は60歳代  少女は眠り薬で眠らされている  秘密と老いと死の匂いが漂うが
マルケスの小説の主人公は  粋で ユーモラスで  明るく前向きな好色人である
「 満九十歳の誕生日に、うら若い処女を狂ったように愛して、自分の誕生祝いにしようと考えた。」
これが小説の冒頭である   
作家にとって 最初の一行はとても大事と聞くが  この一文にわたしは欣喜してしまった
90歳という高齢  誕生日を祝うという気持ち  なんとなく違和があり ユーモアのある書き出しである

町の新聞紙のコラム記事のようなものを書いて 妻も財産もなく生活してきた男が主人公である
「 女性と寝た場合、 必ず金を払うようにしてきた。    ・・・・・  
  五十代になると、 少なくとも一度は寝たことのある女性の数が五百十四人にのぼった。 」
こういうあっけらかんとスケールの大きなマルケスの主人公は  愉快で 笑ってしまう
原稿を書き続けることを待っている編集長とのやりとり  書いた記事に反応する町の人たちのこと
娼家へ行くために乗ったタクシーの運転手がかつての教え子で 「 行ってらっしゃい、 博士 」と
大声で親しげに言われてしまう    「私としては礼を言うより仕方なかった。」 愉快で笑ってしまう

十四歳に満たない少女は 病気の母や弟妹の世話をしながら昼間働く疲れで  いつも眠っている
九十歳になって眠っている少女に恋をしていく主人公は 家財を整理し すべてを少女に遺す遺言を書く
「 私は光り輝くような思いで外へ出た。 」 
明るく前向きに九十一歳の誕生日を迎える幸せな老人の物語である
また再読したい本が一冊できたのが  うれしい


   

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 映画  ”  007 / カジノ・ロワイヤル ”

2006-12-11 21:14:15 | ★映画  
男性好みの映画という偏見があったけれど  新生ボンドが面白い と映画評が褒めていることと
脚本は ”クラッシュ” ”ミリオンダラー・ベイビー ” を書いた人 ということなので 観に行った

いきなりの展開   ハラハラ ドキドキどころじゃない パワフルでスピーディな追いかけシーン
悪者は 建設中の起重機の上へ上へと逃げていく   ボンドが追いかけていく
空の真上での綱渡りのような場面は 高所恐怖症ではないわたしでも ゾ~~  でも 美しかった!
逃亡者もボンドも 実によく走る  走る姿のきれいなフォーム  鉄筋を鉄棒のごとく 回転する
カーチェイスのような追いかけではなく 人が足で走って逃げ 走って追いかけるのが とても いい

飛行機を爆破させようとする悪者も  どこまでも冷静に任務を遂行させようとする
鍛錬し 訓練し 選ばれての悪者だから  自分のすることに揺るぎない信念があるのだろうな
よきことに情熱を向ければ 素晴らしい仕事が出来る人かもしれないのに 悪者であることが惜しい

荒けずりのワルガキっぽかったボンドが  仕事を通して  だんだんプロらしくなってくる 
宇宙飛行士も優れて選ばれた人がなる仕事だろうと思っていたけれど  ボンドも万能で カッコイイ
コンピューターや機械に強く  危機の状況のなかで何が自分に有利かという判断力が 抜群である
人を殺し  自分も拷問に遭い  女性との情の交歓もあるけれど 敵を倒すという一念が鮮やかだ
諜報員に限らないけれど  仕事のプロである人たちへは 畏敬の思いを抱いてしまう

ボンドは テロリストに資金を提供している男を破産させるために  英国財務省の金を賭けて
ポーカーに挑む
外国の美しい街  高級ホテル カッコイイくるま  男性の礼服  女性のセクシードレスを目で楽しむ
カジノなどは行くこともできないところだけど  映画では 大金持ちのお客のように間近で見られる
世の中には たいそうなお金持ちがいるのだなぁ と リッチで ゴージャスで 贅沢で という
生活空間を垣間見て 楽しめた映画だった

   
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 映画  ” 武士の一分 ”

2006-12-08 21:53:55 | ★映画  
時代劇が好きというわけではないけれど  山田洋次監督の時代劇作品は 観たいと思う
きれいな着物を着た美男美女のお話じゃないのが  安心して観られる
” たそがれ清兵衛 ”  ” 隠し剣 鬼の爪 ”  そして ” 武士の一分 ”

東北の小藩の下級武士 三村新之丞は  殿様の毒見役を勤める五人のうちの一人である
白装束姿の男だけで調理する台所の隣りの小部屋に整然と座して待ち  作法に則って一口食する
それから漆塗りの立派な器のお膳が 手順を経て  やっと殿様の前へ運ばれる
殿は いつも ぬるい食事をお召し上がりになるのだろうか

「 早く隠居して 子どもたちに剣術を教えて生きたい  武士の子も農民の子も その子の身の丈に
あったやり方で 剣術を教えてやりたい 」 と 妻に夢を話す
新之丞は 季節外れの貝料理の毒に当たって  高熱ののち  失明してしまう
今後の家の存続について縁者が集まって談義するが どの親戚も面倒を見たくない様子がみえる
妻は新之丞の上司に相談に行き 騙されてしまうが  殿からは 家禄はそのままという温情を得る
武士の義を重んじる気持ちと 夫としての憤りから  剣の使い手である上司へ決闘を申し込む

映画の前半は  若夫婦と父の代からの下男との つましい暮らしぶりが明るく描かれている
木村拓哉は こういうサムライ姿になるのかぁ と その若々しく整った扮装を面白がって見ていたが
失明し  妻を離縁し  師匠に剣の稽古をつけてもらう頃から  アイドル木村拓哉の気配が消える
自分の死を覚悟して決闘に臨もうとする若いサムライの一途さを  ハラハラしながら見てしまう
師匠との稽古の場面でも 野外の果し合いの場面でも  盲目の新之丞の剣は清新な緊迫感があって
きれいだなぁと思ってしまった     木村拓哉の個性が 似合ってるのかもしれない

つつましい家の中で家事や縫い物をして働く ふっくらした健気な妻も かわいく好感が持てたけど
質素な家の外回りの仕事を飄々とこなす中間( 召使いの男 )役の 笹野高史の雰囲気は いいなぁ
この人の舞台は何度も観たけれど  愉快で楽しく ひょうきんで哀しく 脇役には居てほしい役者である 

映画” ダ・ヴィンチ・コード ”では 主役の学者が というよりトム・ハンクスの個性が強いのか
トム・ハンクスが演技している という匂いが消えなくて 物語の重厚感が伝わってこなくて困ったけれど
” 武士の一分 ”では  アイドル歌手木村拓哉の気配を忘れて 映画を楽しめたのが  うれしい


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 映画  ” クリムト ”

2006-12-05 18:28:52 | ★映画  
画家クリムトについては  きらびやかな絵を何点か知っているだけである  
タイトルと絵が一致するのは ”接吻 ”だけ   他の絵も 特徴あるクリムトの作品は すぐにわかる
金箔を使った絵は  絵画というよりグラフィック・デザインのような雰囲気を感じる
どういう画家なのか  なんの知識も持っていないので  映画は期待して観に行った

クリムトの夢と現実が交差する映画の運びは  画家の心の軌跡を辿っているように見える
豪華なカフェや紳士たちの集うサロン お金持ちの隠し部屋は  鏡や光の使い方が幻想的である
カーテンの奥に人物が影絵のように現れて消えたり  非現実さが斬新で 抽象的な印象である 
現実の女友達と会話をしている場面なのか  憧れの女性との逢瀬を夢想している場面なのか  
あらすじだけを追っていては  わからなくなってしまう

1900年 保守的なウィーンでは クリムトの描く裸の女性がスキャンダルとなっていたが
パリでは絶賛され   パリ万博では金賞を受賞する  
フランスのアール・ヌーボーの先駆者とも言われるクリムトの時代の女性たちの衣装は きれいだった
当時 ウィーンには 「 モデルに触れないと描けない 」 と言ったクリムトの子どもが
30人いたといわれる
クリムトに関わるモデルの事などのスキャンダラスな話題や制作上の煩悶を描くというより 
自分の憧れにひたむきなクリムトの精神世界を綴ったという印象で 静けさを感じる映画だった

クリムトの描く官能と情熱にあふれた あでやかな”エロス”の世界は いまなお新しく 感動的である
生は 目くるめくようなエロスの時と共にある   熱い情熱を 華美な筆でキャンバスに載せる
ほとばしる感情が平らになっていくとき  謳歌の背中合わせに死の気配がほの見えるようで不安になる


1862年  金細工師の家庭の7人兄弟の長男として  ウィーン郊外に生まれる
ウィーン工芸美術学校に入学  のち 美術館の壁画  大学の大講堂天井画を制作
1918年  自宅で脳卒中で倒れ 入院  肺炎を併発して 55歳で死去


   

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