華やぐ時間

時の豊潤なイメージに惹かれて 。。。。

” 不運な女 ”   リチャード・ブローティガン  著

2006-02-21 19:28:21 | ★本
いい本です と書評が褒めているから  どんなふうに よい本か 好奇心で図書館から借りてきた

アメリカの作家ブローティガンの本を 初めて読む
いろいろな街を講演のために 友人に会って滞在するために 旅した半年ほどの出来事を日記風に
記した小説である       
自分が遭遇した予想外の出来事や久しぶりに電話で話す友人たちの悲壮な嘆きさえも 軽妙に綴る
日常の些細なことが いきいきと おかしみをもって描写される
ただ 読みながら 出来事や人を見る作者ブローティガンの視点に 危うさのようなもの  あるいは
強い孤独のようなものを  ずっと感じながら読んだ

交差点のど真ん中に、新品の女物の靴の片方が転がっていた という落ち着かない感覚の書き出し
知り合ったばかりの男から その恋愛の話を聞かされ続け ゆるゆると自分の体が縮んでいく感覚
ハワイ マウイ島の荒廃した日本人墓地を訪ねたり  一夜の あるいは少しの間つづいた恋のこと
「わたしだって、 少々でも愛が必要だ、 たまには。」 と作者は書く

タイトルの  不運な女  とは 誰を指したのだろう
作者がある街で少しの間借りていた古い家は  自死をした見知らぬ女の家
その事実を告げられてからも住み続け  旅をしながら ときどき 見知らぬその女に思いを馳せる
もうひとり 親しい女友達が癌を患い 「いつも強靭で果敢で、すごく精力的、積極的な性格だった。
がんはその彼女をおびえて泣く少女に変えてしまった。」  この友人のことも 折りにふれて思う
日常の出来事や人との些細なやりとりのなかにも 生を肯うような温か味のある言葉で綴りながら
「死」のイメージがあふれているような小説である

この本は 1990年ごろ 未整理の遺品がはいっていた箱のなかから発見された小説である
作者リチャード・ブローティガンは その六年前  1984年10月に ピストル自殺した
 
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

映画  ” オリバー・ツイスト ”

2006-02-15 18:57:27 | ★映画  
世の名作といわれるような本を 世界文学全集 日本文学全集を わたしは ほとんど読んでいない
いまからも たぶん 読まないだろうと思う
だから こうして 時代考証もしっかり作られたと評判の映画が出来ると  これ幸いと観に行く

イギリスの文豪ディケンズの原作”オリバー・ツイスト”を 楽しみにして観に行って来た
十九世紀のイギリスの街並を お金をかけて再現したというだけあって 貧しい時代の雰囲気がフンプン
物語の運びに手に汗を握る思いで感情移入して観ていたけど  背景の人々の暮らしぶりに目がいく
こういう家に  こういう部屋の調度品と共に  こういう服装で 人は暮らしていたのか
教養ある金持ちの生活と 物を盗んで生きている者たちの暮らしぶり
こういう対比が 物語に奥行きをもたらせ  ひょっとしたら実際に貧しい者がこう生きたかもしれない 
ありえたかもしれない可能性を わたしに想像させる

富める者は いい   職業柄 威張っていられる者は その狭い視野の中で驕っていればいい
だけど 貧しく生まれついた者には その境遇から抜け出すどういう機会があるのだろうか
9歳の孤児オリバーは自分の足で歩き出し 人と出会い  人の温もりも恐ろしさも体験しながら
自身のもって生まれた資質が オリバーの人生の方向を導いていく

自分の望まない環境や 抜けられない試行錯誤が続いた時  その生活や心の貧に堕して 
おのれの境遇を受け入れてしまう人は いるかもしれない
わたしなど 自分へ たっぷり言い訳しながら 立派な悪女になりそうだ

自分自身に迷いを持たぬふうな悪人たちを除いて  オリバーの身近にいる登場人物たちは
他人を騙し 盗むことで生きていながらも  オリバーと出会うことで 自分の中の忘れていた
美しいきれいな心を体現していく
人と人との出会いの不思議をいつも思う
その人がその人らしく そこに居るだけで 他人同士に磁場が出来 事は良い方へ悪い方へと傾く 

いい映画だったなぁ と思う
                                           
                                         
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

” 東洲斎写楽はもういない ”   明石散人 + 佐々木幹雄 著

2006-02-12 00:12:14 | ★本
浮世絵が好きというわけではないけれど 東洲斎写楽は誰かという謎に 少々関心がある 
この頃殺人の起きる推理小説を読む機会が多いけれど 謎を解いていくお話を推理小説といえるなら
わたしにとって この本はスリルとサスペンスに満ちた上等の推理小説である
十分わくわくし それで それで? と ページを繰る手が 先へ読み急いていく
自称明石散人(あかし さんじん)と名乗るY氏と知り合った私は 写楽を追いかけてみませんかと
提案する      読み始めてまもなく 以下の文を読み この本は面白そうと  ときめいた

          **************


本書の主人公であるY氏は、私に対し、写楽という媒体を通して様々なことを教えてくれた。
しばしば彼は、従来の「写楽本」 _多数出版されている「写楽研究本」や「画集」を総称して、Y氏は
こう呼ぶ_ のことを算数の計算を例にとって説明してくれた。
「写楽本」の筆者達は、写楽の謎を、

    1+2=3   2+1=3

という、どちらも「3」が答えとなる二つの「足し算」で計算し、答えが同じになったことで証明が完了したと
思い込んでいる。   これは明らかに誤りだ。   何故なら、あらかじめ予想された結果「3」を、
手元にあるデータをもとに検証したに過ぎない。
写楽の作品が発表されたのは200年近くも前の出来事である以上、最終的に百パーセントの証明は
不可能である。   だからこそ、写楽の証明は「引き算」的方法で行なわなければならない。  
つまり 二つの計算式は、こう変化する。

    1-2=-1   2-1=1

整数値が同じであるため一見同じように見えて、実は異なる二つの答え 「マイナス1」と「プラス1」を、
証拠を提出しつつ、 なおかつ論理的に 「-1=1」として説明しなければならないのだ。  
言い方を換えれば、「マイナス1」を「プラス1」に限りなく近付けていくことこそが、「引き算」的証明なのである。   
はじめから用意された一つの答えではなく、 似て非なる二つの答えをいかにイコールでつなぐか・・・

         ****************


こういう考え方のY氏は 膨大な量の資料を読み 写楽が存在したとされる数ヶ月間の歌舞伎や能舞台の上演日や演目まで検証明記してみせる
その学術的な検証検討の緻密詳細さに わたしは敬意瞠目と共に ついつい飛ばし読みしてしまう
資料を読み その繋がりから他本を探し読み込み  いったいどのくらいの月日を調査したのだろう
様々な証しを提示されて 東洲斎写楽の読み方は 「とうじゅうさい しゃらく」 と呼ばれていたと解く
けっして薄い本ではないけれど 論の進め方が犯人探しの高揚感にも似て わくわく どきどき読める
謎は解けた  
この作者の論理の組み立て方  ものを見る視点角度に惹かれた    学びたいものである
                                  
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

” 占星術殺人事件 ”   島田 荘司 ( しまだ そうじ )著

2006-02-09 21:31:53 | ★本
長編の推理小説である  物語の中の時間が43年間も流れているので(?)  じっくり読めた
探偵 御手洗 潔(みたらい きよし)と友人 石岡のキャラクターに親しみが持てて 楽しい
いつも思うことだけれど ものを書く人たちは たいてい そうなのだろうけれど 博識だなぁと思う
この物語の作者も 占星術から日本国内の鉱山や 地理の緯度経度を駆使して 物語を膨らませる
事件発生から解決までの43年間という経過のみならず  伏線の手が込んでいるので
先を急ぐことなく  わたしの未知の分野での講義をいろいろ聴かせてもらえた

読み始めて 「明治三十七年生まれの長女 大正二年生まれの娘が・・」 などという記述にびっくり仰天
この本は いつ刊行の小説なのかと 思わず 奥付を眺め  どうして こんなにも古いお話なのかと
首をかしげながら読んでしまった
43年前の迷宮入りの事件を 現代の探偵が解決するのである
強度のうつ病をわずらってるらしい御手洗探偵が愉快で好感が持てるから  楽しく読めた

最初の事件  完全密室での犯人の手口を  すらすらと6通りも推理してしまうのには びっくり
そんなにも早く謎が解けていいのか と読者のわたしは焦ったけれど  これは序の口
不思議な殺人事件は  このあと始まっていく
人間味あふれる御手洗が ぎりぎりまで謎が解けずに悶々とするのも よい
犯行のトリックは そうなのかぁ と思いました   あたりまえだけど
登場人物たちが 市井に居そうな人たちであり  その生の背景にも頷けそうだったので
推理云々を離れて  ゆっくり読めた本です

    
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

” 人形は なぜ殺される ”  高木彬光 著

2006-02-06 00:48:48 | ★本
1995年11月に刊行された推理小説である    主人公の名探偵は神津恭介
「男には珍しいほど美貌の青年ではあったが、美青年にありがちないやらしさを救うものは、
その顔全体に、みなぎる気品と英知であった」    いいなぁ  羨ましい美貌だね

推理小説は たいてい意外な人物が犯人である  
物語の前半で だいたい登場人物たちが出揃い  その背景が紹介されていく
読み手のわたしは ついつい 怪しくなさそうな人物を探す
半分ほど物語を読まないと 事件も起こってないのだから  せっかちにも ほどがある
今回は 犯人は捜さないで 作者の思うつぼにはまろうと思って 悠々と読者になってみた
作者が いかにもこの人物は怪しいのだぞ と強調するように事や人を書き表しているのが面白い
でもね  「この人 変 」とわたしの直感した人が犯人だったわ   エッヘン!
美貌の探偵と行動を共にするところ  押入れから変装衣装が発見された時 これで ン?と思ったヮ 
トリックは 美男探偵に解説されて なるほど その為かぁと わかりました

先日読んだ推理小説もそうだったけど 複数の殺人が起こる事件は 大金持ちの館である
古い家系  長い怨念  大きな仕掛けのためには財産家のお屋敷が必定かな
登場人物たちも どことなく類型的で 性格や描写に役割分担がある
ン十年前の小説はこんなふうだったのかなぁと思いながら読んだ

あ  推理小説としてのトリックは  うん  おもしろかった
ガラスの箱から人形の首が盗まれる不思議   探偵の解説を聞いて いつも思う
ものの考え方は もっと 柔軟性に富まなければならない と
明日から  さっそく 実生活で実践しましょう
                                   
コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

フォントサイズ変更

フォントサイズ変更